不動産・建設業界は重厚長大産業の最たるものだが、日進月歩のIT技術はこの世界にも着実に浸透している。3月中旬に南仏カンヌで開催された不動産コンファレンス、MIPIM(ミピム)では、ゲーム技術を応用した展示や発表が来場者の視線を集めた。

 携帯端末を模した画面上に、会場建物をモデルにした3次元バーチャル模型を展示したのは仏Stereo Graph社。「Obeserv3D」と名付けられたソフトウエアは、AutoCADなどの有名3Dソフトからインポートした建物の設計データ(ワイヤフレームモデル)を基に、簡単な操作で仮想空間内のモデルルームを制作できる。完成した画像をiPadなどの携帯端末で持ち出し、建設予定地で顧客に見せるといった用途を想定している。画像は内蔵GPSや方位磁石に連動して自動的に向きを変えるほか、3Dテレビを使った立体視も可能だ。

 ゲーム会社出身の開発者を多く抱える同社は、普及したゲームエンジン(ソフトウエアライブラリ)であるUnityをベースにこの製品を開発したという。UnityはiPhoneアプリとして有名なAngry Birdsをはじめ、多くの市販ゲームで使われている。Obeserv3Dを使ったバーチャル模型の作成には、テクスチャー(表面素材)画像の貼り込み作業代を含めて100万円以上の費用が必要だが、“物理的な”モデルルームの建設に比べればはるかに安い。現地フランスではすでに住宅デベロッパーなどでの実用例があるという。

 MIPIMでは、ほかにもゲーム技術の応用製品が披露された。仏Enodoの「Double Bind」は、不動産・建設業界向けに特化した建築シミュレーションソフトだ。やはり実績あるゲームエンジンのCryEngineを使い、画面の中にリアルな街並みを再現した。家庭用ゲーム機のコントローラーを使い、画面上で仮想の街や建物の中を歩くことが可能になる。同社は、ゲームに勝てば来年のMIPIMの入場券をもらえるキャンペーンを展開。壁一面にディスプレーを並べた様子は、展示会場の一角で異彩を放っていた。



本間 純