インフラの貢献度も国際基準で評価

――結局のところ、国際評価基準の導入に象徴されるグローバル化は、不動産鑑定士にとってチャンスなのかピンチなのか・・・。

磯部 私は、ほかの分野に進出できるチャンスだと受け止めています。まず専門性の点でいうと、不動産でも不動産以外でも、資産評価のアプローチに特殊性はないと考えています。もちろん会計士でなければできないこともありますが、評価という専門性をしっかりともっているプロは、不動産であれほかの資産であれ対応は可能です。東南アジアで不動産評価から出発した私の友人も、今ではビジネスバリュエーションの評価に進んでいます。

 もう一つ、不動産から他分野に進出しやすい要素があります。不動産評価はローカルなものです。法律や市況など、その地域でしかわからないことがたくさんあります。しかし、企業評価などはどちらかというと数字の評価なので、世界のどこへ行ってもできる可能性がある。

 不動産の評価業務を取り巻く環境の変化も、他分野への進出を促します。不動産の鑑定人は相対的に数が多く、需給関係からフィーが低くなっています。これは世界的に起きている。さらに、不動産の情報開示が世界中で進んでいるので、昔と比べると参入障壁は低くなりました。不動産評価のビジネス自体が世界中で先行き不透明で、業界がシュリンクしていくのなら、新分野に向かうのは当然のことです。

――日本政府は成長戦略の一環として、海外へのインフラ輸出を後押ししています。RICSには建築や土木の会員も多いと聞きました。日本の建築や土木の専門家、あるいは行政担当者には資産評価のグローバル化が影響しますか。

磯部 設計や施工の業務に私自身が直接関係することはありませんが、海外では建築・土木分野で評価に関わる人にとってレッドブックは知っていて当たり前のものです。それに、レッドブックのなかの英国評価基準は、地方行政体の資産評価について解説しています。

 従来の開発援助ではハコをつくっておしまいの面が強かったのですが、これからはつくるだけでなく、施設がその国の経済にどのように貢献したかを把握することが重要になります。建設後の変化を資産価値の面から評価するとしたら、やはり国際評価基準で行うことが求められるでしょう。

RICS評価基準2012

RICS評価基準2012(レッドブック)

RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)著
JAREC(日本不動産カウンセラー協会)訳
560ページ
2012年11月30日発行
価格:10,500円(税込)

聞き手=菅 健彦