国際評価基準の導入は不動産鑑定士が他分野に進出するチャンス。海外でのインフラ建設による貢献度を評価するとしたら、やはり国際評価基準で行うことが求められる――。前回に続き、資産評価のグローバル化の影響についてRICSフェローの磯部裕幸氏(日本ヴァリュアーズ代表)が語る。

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磯部裕幸(いそべ・ひろゆき)氏
日本ヴァリュアーズ代表取締役。不動産鑑定士。FRICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会フェロー)。JAREC(日本不動産カウンセラー協会)常務理事。CRE(米国不動産カウンセラー協会会員)

――国際評価基準を用いることは何に示されるのですか。

磯部 欧州や東南アジアのクライアントと結ぶ契約書には、ほぼ100パーセント「国際評価基準(IVS)に準拠することが条件」と書かれています。国土交通省の部会が日本の不動産鑑定評価基準と国際評価基準の整合性について検討していますが、日本の評価基準に従えば国際評価基準に準拠したとみなされるまでには、まだ至っていません。

 グローバル化した世の中では、例えば特殊技術をもった東北地方のメーカーが、ドイツの企業に買収されることだって考えられます。そうなると、会計基準であれ買収時のデューデリジェンスであれ、お金を出す側が要求する手段で評価することになります。

 ドイツでは、ファンドが海外物件に投資した際、最低年に1回はドイツの不動産鑑定士が現地に行き、ドイツの立場で現地の鑑定士が作成したレポートをレビューし、数字の妥当性について自分なりの見解を示すことが法律で決まっています。日本の評価書を解釈するときに、橋渡し役となるのが国際評価基準でありレッドブックです。

 近い将来、日本のREIT(不動産投資信託)が海外の物件を組み入れることになるかもしれません。先のドイツのケースとは逆に、海外の不動産鑑定士が評価したものに、日本の不動産鑑定士が何らかの形でコミットすることになるでしょう。その読み換えのときにも、国際評価基準やレッドブックがよりどころになるわけです。

――米国の状況は?

磯部 米国ではUSPAP(米国鑑定業務統一基準)が使われています。この統一基準を制定した米国鑑定財団には国際評価基準委員会(IVSC)が重要な会員として加盟していますし、RICSも米国の評価基準の委員会に会員として名を連ねています。もともと不動産を対象としていた米国鑑定財団でも、今では不動産以外のアセットやビジネス、金融商品などの広範な資産評価基準について言及してきています。海外との関係においては、米国も国際評価基準をよりどころにせざるを得ないということです。

――今起きつつある変化は、日本の不動産鑑定士の役割を広げる方向に働きますか、それとも、不動産以外の専門家が不動産評価まで担うようになるのでしょうか。

磯部 不動産鑑定の専門家が領域を広げることも考えられるし、その逆も考えられます。世の中のニーズとして、色々なアセットの評価のニーズが大きくなっていけば、資格があろうがなかろうが専門家が必要とされるということです。○○鑑定士という職能を固定化することに意味がなくなるかもしれません。

 日本には国家資格としての評価の専門家は不動産鑑定士しかいません。それ以外のアセットは、国が認めた資格はないがプロとして評価している。海外では、日本のように不動産評価の国家資格のある国もあれば、国家資格がない国も多いのです。

 10月に、ある国際会議でお会いしたフランスの不動産鑑定士は、「評価関連の専門家が一つの傘の下で暮らすことになった」と話していました。フランスでは政権が代わり、すべての評価の専門家の団体を合併するように指令が出たというのです。フランスの取り組みはIFRSのグローバル化に沿ったものです。企業活動のなかで、いろいろなアセットを評価するときに、不動産だけでなくほかの資産もいっしょに評価した方が合理的だという判断でしょう。