日本の不動産鑑定評価基準と何が違うのか

――IFRSが導入されると、不動産の評価も変わってくるということですね。

磯部 不動産評価のグローバルスタンダードの構築をめざして1981年に設立された国際評価基準委員会(IVSC)は、現在ではIFRSに対応する形で、動産や事業、金融資産などさまざまな資産の国際評価基準を提示するようになりました。ちなみにIVSCは、RICSとAI(米国不動産鑑定士協会)が共同で設立しました。RICSのレッドブックには国際評価基準に準拠すると書かれています。

 本質的な話ではありませんが、IFRS財団評議会議長のミシェル・プラダ氏は一昨年までIVSCの理事長でした。IVSCのリーダーだった人が、格上であるIFRS財団の議長に就任していることも、資産評価基準とIFRSが密接な関係にあることを示しています。

――日本の実務者への影響は?

磯部 ほとんどの欧州諸国、東南アジア諸国で採用されている国際評価基準が、日本でも評価実務や会計実務の基準になっていくことは間違いありません。だとすると日本企業や、企業のなかで評価業務を担当する人は、これに準拠する活動を求められることになります。

 IFRSは資産の時価評価を年に一度、行うよう規定しています。つまり評価の頻度の点でも、企業に与える影響はこれまでと比べものにならないほど大きくなると予想されます。企業の株価やポジションを決めるのに、評価が大きな要素になるということです。

――日本の不動産鑑定評価基準と、国際評価基準の違いは何ですか。

磯部 概念的にも実務的にも本質的な違いはありませんが、細かいところではいくつかの違いがあります。日本では不動産鑑定士が土壌汚染を判定することになっていますが、国際評価基準では土壌汚染はないものとしてみていい。用語に関しても、例えば日本でいう「正常価格」が「マーケットバリュー」(市場価値)となっています。

 日本の不動産鑑定評価基準はもともと原理原則を示していたのですが、バブル崩壊後、どんどんマニュアル化していきました。これに対してレッドブックは原理原則を貫いた本です。
(つづく)

RICS評価基準2012

RICS評価基準2012(レッドブック)

RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)著
JAREC(日本不動産カウンセラー協会)訳
560ページ
2012年11月30日発行
価格:10,500円(税込)

聞き手=菅 健彦