不動産投資がグローバル化するにつれて、資産評価に共通の評価軸が必要になった。IFRS(国際財務報告基準)の導入も評価の共通化を促す。こうしたなか、日本での活動を活発化しているのがRICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)だ。資産評価をめぐって世界で何が起きているのか、RICSフェローの磯部裕幸氏(日本ヴァリュアーズ代表)に聞いた。

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磯部裕幸(いそべ・ひろゆき)氏
日本ヴァリュアーズ代表取締役。不動産鑑定士。FRICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会フェロー)。JAREC(日本不動産カウンセラー協会)常務理事。CRE(米国不動産カウンセラー協会会員)

――2012年4月に不動産証券化協会(ARES)がRICSと提携を結びました。8月にはRICSの日本法人が設立され、11月にはJAREC(日本不動産カウンセラー協会)とJAREA(日本不動産鑑定士協会連合会)がRICSと業務提携しました。そして国際評価基準(IVS)に準拠した「RICS評価基準2012」(通称 レッドブック)の発行と、RICSをめぐる話題が相次いでいます。RICSはどんな団体ですか。

磯部 RICSは「アール・アイ・シー・エス」と呼びます。日本語訳は「英国王立チャータード・サベイヤーズ協会」といい、英国国王から認められた由緒ある団体です。日本でのRICSの知名度は低いのですが、欧州や東南アジアを中心に世界では資産評価を含む不動産関連の専門家組織として知られています。

 RICSは不動産を中心に、あらゆる資産評価の専門家のために倫理的・技術的基準を提供する一方で、政府や産業界に対して中立的な助言を与える活動を行っています。こうした活動によって依頼者を守り、専門家の地位を向上させ、公共の利益に資する役割を担っています。今では、世界の146カ国に10万人以上の会員がいます。

――ARESやその会員にとって、RICSとの提携にどんな意味があるのでしょう?

磯部  不動産証券化の専門家の証であるARESマスターの資格保有者は、提携によって、一定の条件を満たせばRICSの会員になることができます。つまりARESマスターは、国際的に知名度の高いRICSの会員になることで、海外での仕事の幅を広げられる可能性がある。ARESにとっては、専門知識修得や能力開発など、世界を視野に入れた活動がしやすくなる効果が見込めます。

――資産評価をめぐって、世界で何が起きているのか教えてください。

磯部 グローバルな企業における会計基準がIFRS(国際財務報告基準)を中心に動いているので、好むと好まざるとにかかわらず日本も追随せざるを得ない状況です。10月にはIFRS財団が東京にアジア・オセアニア事務所を開設しました。日本に対してもIFRSの早期導入を働きかけています。

 もう一つ、不動産のマーケット自体もドメスティックなものからグローバルなものへと変わってきています。不動産投資の垣根がなくなったとき、評価基準に共通軸がなければ、複数の国を投資対象とする投資家の意思決定が難しくなってしまう。不動産にも国際的な基準が必然的に必要になっています。