不動産金融を取り巻く環境が大きく変化するなかで、どのように市場を読み、戦略を練って、利益につなげていけばよいか――。日経不動産マーケット情報はこのほど「基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版」(田辺信之著)を発刊した。不動産投資に必要な基本的ノウハウを、実務に即して解説している。全面改訂した書籍のなかから、内容の一部を紹介する。

 景気循環と同様に、不動産投資市場にも周期的な市況の変動が存在します。すなわち、回復→好況→後退→不況→回復を繰り返す循環です。これを、不動産サイクルと呼びます。

 不動産サイクルは景気や金融市場の動きとともに、不動産市場の内部要因の影響も受けます。その一つが、不動産市場の需要と供給のバランスです。オフィスや商業施設などの需要は主に景気の影響を受けますが、建物の計画から完成までに時間がかかることもあり、供給は必ずしも景気に連動して増減しません。また、需要に増減が生じた場合でも、オフィスビルであれば、賃料改定が2年ごとになっていることが多いので、収益への影響が表れるまでにはタイムラグ(時間の遅れ)が生じるのも特徴の一つです。こうした需給バランスやタイムラグは、オフィスや住宅、倉庫など、それぞれの用途によっても異なってきます。従って、不動産サイクルは景気循環と連動することは多いのですが、必ずしも一致するとは限りませんし、環境変化に即時に反応する株式や債券市場と比べて、市況の変化には時間がかかる傾向があります。

 戦後の日本でも大きな不動産サイクルが約15年周期で4回ありました。それぞれのサイクルが生じた要因は異なりますが、金融緩和期に不動産価格が上昇していることは共通しています。1990年代後半から不動産が収益(キャッシュフロー)によって評価されるようになりましたし、証券化などを通じて金融資本市場との関係がいっそう密接になりましたので、これからも従来と同様の動きを繰り返すとは限りません。しかし、少なくとも不動産サイクルについてきちんと認識したうえで、不動産投資をすることが大切です。米国でも、約18年間を周期とする不動産サイクルが見られるという分析があります。

 不動産は中長期の運用に適した資産ではありますが、サイクルのピーク時に高値で不動産に投資してしまうと、それが投資利回りを算出するときの簿価になるので、毎年の利回り(インカム収益率)が低くなりますし、その後の価格下落による損失(キャピタルロス)を抱えるリスクも高まることになります。

 また、不動産サイクルのどこに位置するかによって、投資戦略も変わってきます。サイクルの底だと判断したときに、そのタイミングで集中的に投資する方法もあります。90年代後半に日本のバブルが崩壊し、市場がディストレスの状態となったときに、外資系ファンドなどが廉価で放出された不動産に集中的に投資して大きな利益を上げたことが、その典型例です。ただし、この投資戦略は成功すれば大きなリターンが得られますが、判断が外れてさらに不動産価格が下落したときには大きな損失を被る恐れがあります。ハイリスク・ハイリターンの戦略だといえます。

 とはいえ、不動産サイクルを見極めることはなかなか困難ですし、サイクルの上昇期に入ってくると、積極的に投資をしたくなるのも事実です。そうした場合に、一定以上のリスクを取らないようにするには、投資判断をするときに、不動産サイクルの中でのポジショニング(位置づけ)を常に確認することに加え、場合によっては一定時期に投資が集中することのないように、あらかじめ投資上限をルールとして定めておくことも考えられるでしょう。また、中長期的に安定的な収益を享受できるという不動産の特性を生かした投資をするには、時期を分散して投資をすること(時間の分散)も有効です。世界の不動産サイクルを見ると、過去24年間の平均投資利回りは7.9%となっています。このことは、時期的に分散して不動産に投資していれば、一定の利回りを享受できたことを示しています。

 また、不動産サイクルを活用した投資をするには、グローバルに投資することも有効です。ある時点において不動産サイクルのどこに位置するかは、国ごとに違っているので、そのなかで有利と考えられる国の不動産に投資するのです。これは、グローバル投資家が従来から用いてきた手法です。

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

定価:2,100円(税込)
田辺信之 著/日経不動産マーケット情報 編
A5判、264頁
2011年12月19日発行

本書を読むと、こんな疑問に対する答えが見つかります・・・・・
・ポートフォリオ理論をどう活用すればよいか
・不動投資インデックスにはどんなものがあるか
・外部成長と内部成長はどう違うのか
・レバレッジとは何か、どの程度の水準が適当か
・リアル・オプションの使い道は
・出口戦略とは何か
・不動産サイクルはどのように変化するか
・コア、バリューアッド、オポチュニティ投資の違いは
・クロスボーダー投資とは何か