不動産金融を取り巻く環境が大きく変化するなかで、どのように市場を読み、戦略を練って、利益につなげていけばよいか――。日経不動産マーケット情報はこのほど「基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版」(田辺信之著)を発刊した。不動産投資に必要な基本的ノウハウを、実務に即して解説している。全面改訂した書籍のなかから、内容の一部を紹介する。

 グローバル市場で、不動産の取引がどのような推移をたどってきたかを見ていくことにしましょう。世界的な好景気、金余りが続くなか、2000年代前半から2007年頃まで、米国、欧州、アジアのいずれの市場においても、不動産取引額は拡大してきました。そのなかでも、2005年から2007年にかけて大きく拡大したのが欧州市場であり、この間に取引額は1.8倍となり、実額にして1430億ドルも増加しました。同じ期間で、米国は1.3倍、360億ドル増、アジアは2.5倍、610億ドル増でしたから、アジアの成長率は高かったものの、この間の取引額の拡大は実は欧州市場に依存するところが大きかったことがわかります。2007年の世界の不動産取引額の約54%が欧州市場でのものでした。

 しかし、2008年の金融危機の少し前から世界の不動産取引は激減し、2008年には各市場とも前年の約半分の取引額にまで落ち込みました。その後、徐々に取引は回復してきますが、そのけん引力となったのはアジアでした。2010年と世界の不動産取引額がピークとなった2007年とを比較すると、米国は0.3倍、欧州は0.4倍にまで減少したのに対し、アジアは1.6倍と、金融危機前をはるかに上回る取引額となりました。この結果、アジアでの不動産の取引額は、2010年には世界の不動産取引額の半分近くを占めるに至っています。

 こうした不動産取引のうち、投資家が自らの国外に投資するクロスボーダー投資は、経済情勢によって変わってきますが、全体の15%から35%程度となっています。市況の良い時期にはクロスボーダー投資の比率が高まりますが、市況が悪化するとリスク回避や投資資金の絶対額の減少などの要因により、投資家が最も知識経験を有する国内取引の比率が増える傾向があります。また、これまでは米国の投資家が最もクロスボーダー投資を志向してきましたが、最近ではシンガポール政府投資公社や、マレーシアや韓国の年金ファンドなどもクロスボーダー投資を増やしてきています。

 グローバル市場の動きを読むために大切なことは、全体の投資動向や資金の流れを大きくつかむことです。どの地域の投資家がどのような地域に投資しようとしているのか、リスクを取ってでも高い収益を追求しようとしているのか、それともリスク回避的な行動をとっているのか、それぞれの国の市況が不動産サイクル(不動産市況の周期的な動き)のどこに位置するかといった事柄です。また、グローバル不動産投資市場の動きは、各国の政治・経済・社会情勢を反映しますから、インターネットなどを利用して、海外のニュースもできるだけ把握するようにしておくべきでしょう。案外に見落としがちなのが、為替相場の動きです。自国以外の不動産に投資をする場合、為替の動きによっては、自国通貨に換算した投資利回りが大きく変動します。

 グローバル市場における日本の位置づけについても、そうした全体感のなかで捉えていく必要があります。日本の不動産投資に関しては、市場が不透明であるとか、海外への英語での情報発信が不十分であるとか、少子高齢化問題を抱える日本の将来性に不安があるとか、様々なマイナス面を指摘されることが多いようです。しかし、日本の市場規模は世界第2位であり、かつ市場の安定性は極めて高いということを、きちんと認識しておくことが重要です。

 アジアに向けられた投資資金のうち約4割が日本に投資されていることも、市場の安定性を裏付けています。一方で、これから国家間あるいは都市間での競争が激化するなかで、日本が競争力を維持できるのか、そのための条件は何かというような観点も常に持っておくことが必要です。

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

定価:2,100円(税込)
田辺信之 著/日経不動産マーケット情報 編
A5判、264頁
2011年12月19日発行

本書を読むと、こんな疑問に対する答えが見つかります・・・・・
・デットとエクイティの関係は
・ノンリコースローンとは何か
・GKTKスキーム、TMKスキームとはどのようなものか
・J-REITとは何か
・金融商品取引法の規制対象は
・なぜ不動産を証券化するのか、誰にどんなメリットがあるか
・プライベートファンド(私募ファンド)とは何か


――第5回に続く――