世界を意識した事業展開が目立つ三菱地所。日本では都市間競争に勝つためにPPP(官民連携)が不可欠だと語る。同社の木村会長へのインタビューを2回連続でお伝えする。
(聞き手は田辺信之・宮城大学事業構想学部教授)
――5年後、あるいは10年後の不動産市場は、どうなっていると思いますか。
ますますパラダイムシフトが明確化して、日本の社会全体が非常に大きく変わるとみています。国内市場は成熟化というか、どちらかというと縮小の方向に向かっている。一方で人・モノ・カネ・情報が世界中を飛び回り、グローバル化しています。
環境の重要性は増し、IFRS(国際会計基準)も標準化されます。不動産に限らず投資対象の金融化は、これから大きな位置づけを占めるでしょう。それとともに、不動産市場や投資市場が変わっていくと感じています。業界再編や統合が進む可能性もある。だからこそ次の10年がものすごく重要になってきます。
このままでは香港やシンガポールに負ける
――課題は何でしょう。
そういう潮流のなかで日本は、国際的な都市間競争にどう向かっていくのかを、はっきりさせなければなりません。下手をすると日本の不動産市場が小さくなるかもしれない。10年後に、極東の取り残された国になってしまう恐れさえあります。
2010年6月にまとまった新成長戦略には、国際戦略総合特区や地域活性化総合特区などが盛り込まれ、総花的ではありますが、政府と民間である程度の意識の共有ができました。
都市間競争で勝つには、やはりPPP(官民連携:パブリック・プライベート・パートナーシップ)なんです。パブリック(官)には制度改善とか、都市インフラ整備、それに教育制度をしっかりやってもらわなければなりません。グローバルな人材をどう育てるかも重要になってきます。
プライベート(民)も、やるべきことはやります。建物を建てて受け皿をつくり、食機能などのソフトを整えてビジネス機能を高度化する。そうしてタウンマネジメントをやるのですが、やはりパブリックがしっかりしてくれないと。土壌がよくなければ花は咲きません。
大丸有(大手町、丸の内、有楽町地区)でもいろいろやっています。だが、我々だけでやっていたら中途半端に終わってしまう。PPPによって結ばれて相乗効果が出てくるのです。
都市間競争の戦略がうまくいけば、日本はよみがえるでしょう。オフィスマーケットも活況を呈し、それに伴って住宅もよくなるはずです。都市間競争は日本全体の帰すうにかかわる重要なテーマです。
――相当な危機意識ですね。
外国人でも、日本に来たことのある方は日本を評価してくれます。しかし、知らない方もたくさんいる。宣伝が足りません。外国企業や外国人を誘致することが重要になってきます。一時はかなりいたのですが、だいぶ少なくなりました。
ある外資系の金融機関は、東京をアジアのヘッドクオーターにしていました。ところが今は香港がヘッドクオーターで、東京がサテライトになっている。別の企業のトップは「ヘッドクオーターをシンガポールに動かすように言われた」と話します。「だめだよ、そんなことしたら」と答えましたが、放っていたら日本から離れていく企業が増えるばかりです。
我々がシンガポールに行くと、「国立大学の優秀な人材を、いくらでも雇ってください」と言われます。シンガポールの法人税率は17%と日本よりもずっと安い。カジノもできました。都市を発展させ、外国人との交流を盛んにしようとしているのです。日本が何もしなければ皆、香港やシンガポールに行ってしまいます。
――何が日本の強みになるとみていますか。
日本は、インドや中国に人口ではかないません。ならば、ロンドンのようなファイナンシャルセンターになればいい。投資家、金融機関、コンサルタント会社などが集積し、そこにいれば最先端の情報や金融技術が集まる。日本なら国際的競争力のある製造業の生産技術を核にして、人や情報を集めることができるでしょう。
先日、インドの方から「日本は法制度もしっかりしているし、クリーンでホスピタリティーも高い。仕事がしやすい」と言われました。ただし、丸の内にいて仕事をするにはよいが、家族と生活するには不安があるようです。英語が通じないし、住宅もまだ狭いという話をしていました。外国の方が安心・安全・快適に、仕事も生活もできるようにすることが大事です。
なんとか日本を明るくしようという思いで取り組んでいますが、この5年が勝負でしょう。