「設計者は『作品』なんて呼びますが、他人のお金で『作品』をつくっちゃいけません――」。あるオフィスコンサルタントの警句です。日経不動産マーケット情報2014年2月号では、賃貸オフィス“ホンネ”匿名座談会を催しました。同コンサルタントのほか、オフィス仲介営業マン、本誌記者が参加し、望ましいオフィスビルについて率直に議論を交わしました。冒頭の言葉はその場で発せられたもの。我が意を得たりとうなずく方も多いのではないでしょうか。記事のなかでは、なぜこんなことに……と驚かされる“残念なオフィスビル”も紹介。さらに具体的な名前を挙げてオフィスビルやデベロッパーを評価しています。座談会の完全版はウェブサイトで連載しますので、併せてご覧ください。

 他人のお金を当てに投資商品を仕立てる「証券化」では、将来のキャッシュフローをできる限り正確に見積もることが事業者の責務。ましてや流動性が極めて低く、一般の不動産のような担保価値が望めないインフラの証券化においてはなおのことです。ところが道路の証券化第1号となった熱海ビーチラインは、その点において失敗だったと言わざるをえません。かつてムーディーズが上から3番目の「Aa2」に格付けした優先社債は、元本回収見込みが極めて薄い「C」に格下げされました。2月号トピックスでは、このような事態に陥った背景を探り、将来に向けた教訓をひもときました。公共部門の財政支出余力が中長期的に落ち込むなか、インフラへの民間資金導入は必須。インフラ投資市場を健全に育てるうえで他山の石としたいものです。

 特集は、2013年通年の取引を対象とした売買事例分析です。REIT(不動産投資信託)が不動産投資市場を席巻した1年でしたが、改めて集計すると、REITが調達したエクイティは1兆1000億円に上り、新規物件の取得総額は2兆円を超えることがわかりました。もちろん不動産各社や一般事業会社も積極的な動きを見せています。1000億円を超える3件の取引は世間をにぎわせました。記事では大型取引のランキングをはじめ、事業者ごとの売買額、オフィスビルの推定利回りなど市場分析のためのデータが満載です。

 2月号には、四半期に1度のオフィス成約賃料調査も掲載しています。東京、神奈川、大阪のオフィスエリア28カ所の成約水準を横並びで比較しました。企業移転ニュースと併せ、オフィス賃貸市況を見通す材料としてご活用ください。

 このほか売買レポートでは、住友不動産による紀尾井町TBRビル跡地6600m2の取得や、ユニデンが銀座の店舗ビルを42億円で取得した事例、かつての半分の単価で売買されたスフィアタワー天王洲など、16事例を収録。これらを含む121の取引を一覧表にまとめています。

三上 一大