日本の不動産投資市場は、東日本大震災という未曾有の災害から着実に回復しました。本誌3月号では、2011年に本誌が独自に集めた不動産売買事例を分析しています。2011年の取引事例数は前年に比べると減少したものの、震災後の低迷を乗り越えて、年後半に件数、金額とも増加。深刻な影響が出るとの懸念を払拭し、むしろ日本の不動産市場の安定感を証明したと言えるでしょう。

 2011年は高額な不動産取引も堅調で、年末に明らかになったGlobal Logistic Propertiesと中国投資有限責任公司による物流施設ポートフォリオ1226億円の取得も記憶に新しいところです。また不動産の買い手として、三菱地所、日本ビルファンド投資法人など、大手不動産会社やREIT(不動産投資信託)も存在感を示しました。

 特集記事では高額取引一覧、事業者別の不動産売買ランキング、国内不動産会社による海外投資の動向をはじめ、本誌が独自に試算しているオフィスビルのNOI利回り、土地取引価格ランキングなど、市況を読むうえで興味深い最新データを多数、収録しています。欧州債務危機や国内景気の低迷などにより先行きが不透明な環境のなか、足元の市況動向を本誌特集でご確認ください。

 さて、東日本大震災を経験した2011年について、日本漢字能力検定協会は1年間の世相を表す漢字を「絆」だと発表しました。いま、「絆」を求めて、特に若い世代の住まい方に新しい傾向が出ています。複数の居住者が共同生活する「シェアハウス」の人気が高まっているのです。これを受けて、競争力を失ったオフィスビルやマンションのバリューアップ策としても「シェアハウス」が注目されています。

 3月号では、アトリウムによるシェアハウスを核にした収益向上事例を取り上げました。築46年のオフィスビルをシェアハウス中心の複合ビルに改修し、NOIを改善したケースです。シェアハウスが成功するポイントの一つは「企画」という付加価値です。居住者のつながりを促す「企画」の良し悪しが成功の鍵となります。アトリウムが選択した企画は何だったのか。記事には、バリューアップを成功に導くいくつかのヒントを盛り込んでいます。

 「売買レポート」では、ヒューリックによるリクルートGINZA7ビルの取得など、24事例を掲載。「オフィス移転・賃料調査」は品川区などを取り上げました。企業移転ニュースでは、シャープやチャーティス・ファー・イースト・ホールディングスのオフィス集約・再編事例を掲載しています。

徳永太郎