「このビルはルートC設計なので、もうそろそろテナントを決めないと……」。2012年~2013年に完成する大型ビルのビルオーナーやオフィス仲介担当者から最近、よくこんな声を耳にする。

 ここで言うルートC設計とは、ビルの防災計画で、国土交通大臣の認定が必要な「ルートC」という避難安全検証方法を採用していることを指す。2000年の建築基準法改正以降、1フロアの面積が広い大型オフィスビルでも採用が増えてきた設計手法だ。コンピューターのシミュレーションによって個別のビルの安全性能を証明することで、過剰な避難設備を省略できたり、プランニングの自由度を高めたりできるといったメリットがある。ただその半面、少し壁の位置をずらすだけでも膨大なシミュレーションの再計算が必要になる。テナントの意向を反映した仕様にするには、ビル完成の約2年前には、テナントを決めておく必要があるという。

 そうは言っても、足元の空室率が高止まりし、経済情勢も不透明な状況で2年以上先の状況を見通すのは、ビルオーナーにとってもテナント企業にとっても非常に難しい。大型ビルの大量供給が予定されている2012年。テナント決定が遅れれば、たとえ完成前に入居を決めても思い通りにレイアウトできない、ルートCでの検証に時間がかかって完成時に入居できない、といったケースが増えてくることも懸念される。

岡 泰子