日経不動産マーケット情報2009年1月号の特集では、これからできる中規模オフィスビル(延べ床面積3000m2以上1万m2未満)の開発動向をまとめている。取材の中で、あるデベロッパーが中規模ビル開発に最も大事な要素として、真っ先に「ビルの視認性」を挙げたのが印象に残った。記者もビルの視認性は重要だと感じていたが、どちらかと言えば付加的な要素だと思っていたからだ。

 このデベロッパーによると、最寄り駅に近いが通りを1本入った場所にあるビルよりも、駅から多少歩いても遠くから見通せるビルのほうが、投資家への売却やテナント確保に有利だという。別の不動産会社は、「中規模ビルではまず、一棟借りのテナントを探すことが多い。その場合、視認性が重要な要素になる」と話す。

 2008年後半に完成した中規模ビルの中で視認性がよく、かつリーシングが成功した事例としてオフィス仲介会社などから名前が挙がったのは、7月に中央区日本橋小網町で完成したakebono日本橋ビルだ。変形した交差点の角地に立っており、リコー販売や岡三証券などが入居して満室稼働している。ガラスカーテンウオールを通して、オフィスで働く人の姿が街にも活気を与えている。


akebono日本橋ビル

 反対に、視認性が悪いビルとして名前を挙がった新築ビルもあった。JRの駅から徒歩1分だが表通りのビルに遮られている小規模ビル、延べ床2万m2を超える大規模ビルだが、奥まった立地にあってビルの全景が見えづらいビルなどだ。完成から半年以上、空室を抱えているビルもある。

 もちろん、視認性だけでビルの良しあしが決まるわけではないだろう。周辺環境よりも賃料を重視するテナントも多い。ただ、ここ2~3年のビル開発ラッシュで、視認性や周辺環境といった基本的な立地条件を十分に考慮しているのかどうか、首をかしげるような案件も増えているように思う。

 本誌の調査では、2009年は、2008年以上に多くの中規模ビルが完成する。オフィス市況が悪化する中、リーシングに苦戦するビルとそうでないビル、買い手が決まるビルと決まらないビルの差が、はっきりしてくるのではないだろうか。その差を生む要因は何なのか。今後は「視認性」もキーワードの一つとしてオフィスビル市況を見ていきたい。

岡 泰子