制振や耐震などの安全・安心対策を低コストで実現できる工法の開発が相次いでいる。コストを抑えた結果、オプションではなく標準仕様として採用するケースも目立つ。高価だった技術の普及に弾みが付きそうだ。

 くしの歯状になった鋼材ダンパーを柱中央にビスで留めた後、角形鋼管のブレース材をボルトで締め付ける─。首都圏で戸建て住宅事業を展開する細田工務店が10月下旬、初めて公開した「延樹・ブランチ」の施工風景だ(写真3-1)。

写真3-1 ボルトでダンパーとブレース材を連結
木造住宅の1階の内壁に「延樹・ブランチ」を取り付ける。くしの歯状になった部分が鋼材ダンパー。左右の柱芯間の距離は900~1000mm(写真:細田工務店)
木造住宅の1階の内壁に「延樹・ブランチ」を取り付ける。くしの歯状になった部分が鋼材ダンパー。左右の柱芯間の距離は900~1000mm(写真:細田工務店)

 ダンパーとブレースの組み合わせだけで、壁倍率5倍の耐震性能を持つ制振壁が完成する。住宅構造研究所(埼玉県八潮市)と東京工業大学の笠井和彦教授が共同で開発。今後、細田工務店が注文住宅のほか、分譲する全ての住宅に標準で採用する。施工棟数は2014年度に約255棟を見込む。

 「繰り返しの大地震から住宅を守る」と、細田工務店商品・技術開発課の森清輝係長は話す。

 建築基準法では、震度6強クラスの大地震で建物が倒壊しないよう求めている。しかし、1回目の揺れで建物が倒壊を免れたとしても、2回目、3回目は大丈夫なのか。本震に続いて大きな余震が何度も襲った東日本大震災以降、こうした危機感が建築実務者だけでなく、消費者の間でも高まってきた。

 延樹・ブランチは、2階建てで延べ床30坪程度の一般的な住宅の場合、1階のX方向、Y方向にそれぞれ2カ所ずつ設ける。水平加力実験などの結果から解析した結果、延樹・ブランチを取り付けた制振住宅は、3回目の大地震を受けても2階床レベルの水平変位は2.7cmと小さいままだ(図3-1)。

図3-1 制振住宅は繰り返しの大地震に強い
同じ壁量の制振住宅と耐震住宅に震度6強クラスの大地震が何度も襲った場合の比較。図中の数字は2階床レベルの最大水平変位を示す(資料:細田工務店)
同じ壁量の制振住宅と耐震住宅に震度6強クラスの大地震が何度も襲った場合の比較。図中の数字は2階床レベルの最大水平変位を示す(資料:細田工務店)

 一方、構造用合板の耐震壁を使った一般的な耐震住宅は、大地震を受けるごとに変位量が増加。3回目では最大10.1cmも変形し、層間変形角が30分の1を上回る。倒壊を免れたとしても、基礎が大きくひび割れて、外壁のモルタルやサッシが脱落し、修復は困難となる。

 耐震住宅の場合、揺れが繰り返し加わるうちに柱梁の接合部などがもまれ、構造用合板の外周や接合金物に打ち付けたくぎが曲がったり、くぎ穴が広がったりする。その結果、建物が当初の剛性を維持できなくなり、変形が大きくなる。