対策は関係者の連携強化から

谷尻 誠氏 建築家、Suppose design office代表(写真:小林靖)
谷尻 誠氏 建築家、Suppose design office代表(写真:小林靖)

顧客へのプレゼンは、しばしば仕事の成否を左右する。魅力的な提案でも、相手の琴線に触れるプレゼンができなければ受け入れられないこともある。そのプレゼンに定評がある建築家の谷尻誠氏が、「顧客の心をつかむプレゼン術を実作に学ぶ」をテーマに、独自の発想を披露した。

 私たちの事務所では、常に「問題と答え」について考えている。設計を依頼してくる相手は、必ず何らかの問題解決を求めている。住宅ならば、日当たりとか風通しのよい家にしたいといった要望を持っている。店舗ならば、来店者数を増やしたい、売り上げを伸ばしたいという課題を抱えている。

 相談を受けた設計者やデザイナーは普通、そうした声に応えようと努力するが、私たちは少し違う。その前に、「本当に問題はそこにあるのか」と、問い直すようにしている。徹底して“悪い性格”になって、誰もが当たり前だと思っていることを疑ってみる。他の人が意識しないことに目を向けなければ、新しい答えは見つからないからだ。

 例えば、私たちは「名前」も疑う。1つのコップが目の前にあるとして、それをコップと意識すると、何かの飲むための器でしかない。ところが、コップという名前を取ってしまうと、花を生ければ花瓶になるし、魚を入れれば水槽になる。コップと言っている以上、機能は1つに限定されるが、名前を取ると機能は無限に広がる。

コップは、その名前を意識すると飲み物の器だが、その名前を打ち消すと、花入れや鉛筆立て、照明、楽器など、無限の機能が生まれる(資料:Suppose design office)
コップは、その名前を意識すると飲み物の器だが、その名前を打ち消すと、花入れや鉛筆立て、照明、楽器など、無限の機能が生まれる(資料:Suppose design office)

 そうした意識を持つと、世の中は「なぜ?」にあふれている。なぜ、オフィスというのはどこも同じように、デスクとイスを並べるのか? そもそもオフィスとは何なのか? そうやって根源に立ち返って物事を考えるようになる。それによって視野を広げ、まず自分たちが固定観念にとらわれないようにする。様々な考え方があることを依頼主と共有しながら提案を練り、プレゼンに臨むようにしている。