自由な住み替えで豊かな生活を描く「住生活基本計画」
新築重視から、既存ストックの活用へと国が政策を転換してから、まもなく10年になる。人口の急減、少子高齢化の加速、空き家の急増といった喫緊の課題を乗り越えるための枠組みづくりを国は急ぐ。その要となる住生活基本計画の内容と狙いを、国土交通省の坂根工博・住宅政策課長が講演した。
2006年に国はこれまでの住宅政策を大きく転換する住生活基本法を制定した。その法律のもとで、豊かな住生活に向けて、同年に策定されたのが住生活基本計画だ。この計画は5年ごとに見直しをしている。来年、次回の見直しが控えており、これから1年かけて、その内容を議論していく。今日は、その住生活基本計画の骨子を紹介しつつ、国土交通省としての認識と取り組みを説明したい。
まず、私たちが直面する最も大きな課題は人口問題だ。現在、日本の総人口は1億3000万人弱だが、2100年の中位推計では5000万人を割り込む。明治期に約3000万人だった人口が、約100年で1億人近くも急増した後、一転して急減するという非常に極端な動態を見せる。しかも、人口が減るなかで高齢者は増え、生産年齢人口は急減する。今、まさにその転換期にいる私たちには、これからどのようにして国を支え、豊かな住生活を築いていくのかが問われている。
現在、日本には約5200万戸の住宅ストックがある。その多くは、新耐震基準の定められた1981年以降に建てられており、一定の基本性能を持つ。これらの住宅については、社会の資産として継承していくために、適切な維持管理をしていく必要がある。日本の住宅の寿命は、欧米諸国よりもはるかに短い30年程度というデータもあり、そうしたスクラップ・アンド・ビルドから、そろそろ脱却しなければならない。
その戸建て住宅を中心に深刻化しつつあるのが、空き家の問題だ。今は地方都市で問題化しているが、やがて東京や大阪といった大都市圏でも同じことが起こる。実際、都市で暮らす私たちの身の回りでも空き家が目に付き始めており、その兆候は現れている。
実は、政策としては、空き家の問題は非常にコントロールしにくい。都市の外縁部から始まっている人口減少と、それに伴う空き家の増加は、一様には進まない。時間的にも空間的にも偶発的に、ぽつりぽつりと空き家が増えていく。そうしたコントロールしにくい状況下で、持続可能な都市をつくっていくためには、コンパクトシティ・プラス・ネットワークの発想が欠かせない。実現は簡単ではないが、地域交通のあり方なども含めた街づくりが求められる。