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TARGET2020 2nd Stage

空間自体の知能化で生活を充実・支援

[先端技術トラック] 渡邊朗子氏=東京電機大学

2015/05/15

ロボットと共生する建築・都市のデザイン

渡邊 朗子氏 東京電機大学未来科学部建築学科准教授(写真:柴仁人)

ロボットといえばアトムのような人型ロボットを連想しがちだが、空間自体を知能化することでサービスを提供する研究が進んでいる。単体のロボットと建築空間が連携すれば、さらにきめ細かいサービスの提供も可能になる。

 私のバックグラウンドは建築とデザインで、実際に住居やワークスペース、複合的な公共空間などの設計を行っている。一方で十数年前から、ロボットやICTをどう建築空間に取り込んでいくかというテーマに取り組んできた。

 きっかけは、2000年に文部科学省の学術フロンティアの助成を受けて建設された慶応義塾大学グローバルセキュリティ・ラボ(G-SEC Lab)の総合デザインを担当したことだ。このラボは、さまざまな情報を世界中から集めて考察する研究室。設計では、単なる施設のデザインだけでなく、人の活動を支える家具や情報システムをトータルにデザインする必要性に迫られた。

渡邊氏が総合デザインを担当した慶応義塾大学グローバルセキュリティ・ラボ(G−SEC Lab)。2001年に日経ニューオフィス賞を受賞した(写真:内田洋行)

 この方向性を発展させると、空間が利用者の行為を記憶し学習するなど、建築空間自体が知能化し、よりよい環境へと働きかけてくる——そういう建築の未来像があるのではないかと直感した。

未来の居住空間「スマートリビング」

 ロボットとの共生というと、ASIMOやPepperのような人型ロボットが空間に入ってきて単体でサービスを行うイメージがある。だが、実現可能性としては空間自体をロボット化したほうが早い。単体のロボットと知能化した空間を連携させれば、さらにきめ細かなサービスが可能になるだろう。

 政府の予測では、ロボットの活用はサービス業で非常に進むという。この分野には建築と絡むアイテムがかなりあると考えている。分野別の予測では「受付・案内」「清掃」「重作業支援」などの成長率が高い。

●2035年までのロボット産業の将来市場予測
政府は、すでに市場が形成されている製造業などの成長に加え、サービス分野など新分野へのロボットの普及によって、「2035年に9.7兆円まで市場が拡大する可能性がある」と予測している(資料:経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構)

 これを踏まえ、私の研究室では、ロボットと共生する生活空間を計画技術の側面から研究している。実験でロボットの接近限界距離を調べたところ、日本の高齢者はロボットに対して親和性が高く、動くものが近づいてきてもあまり怖がらないことが分かった。積極的にロボットを使いたいという意識調査結果も出ている。ロボットのデザインに関しては、のっぺらぼうではなく表情があったほうが親和性は高い。

 こうした基礎的な研究のほか、具体的にロボットやICTを用いて未来のスマートリビングをつくろうと、東京電機大学未来科学部の建築学科、情報メディア学科、ロボット・メカトロニクス学科で協働した。

東京電機大学未来科学部の建築学科、情報メディア学科、ロボット・メカトロニクス学科の協働による「スマートリビング・プロジェクト」(写真:建設通信新聞)

 まず人が入室すると、壁面からロボットチェアが走り出て座るよう促す。実験では魚眼カメラによって位置情報を取得し、障害物を認識して回避できるようにした。またテーブル上にオブジェを置く直感的な操作で、壁面のスクリーンにさまざまな情報を映すスマートテーブルもつくった。人が退室すると、ロボットチェアは自動で壁に収納される。

 デモを見た来場者へのアンケートでは約9割の人が「面白かった」と答え、「実際に使ってみたい」という人が6割に上った。

●建築・ロボット・情報技術の融合を目指すスマートリビング

介護・見守り分野への展開

 高齢者の見守りも重要な課題だ。サッシ、キッチン、バスなどの住設機器を知能化し、安全・安心な見守り領域を高めていく研究にも取り組んでいる。これには誤検知を起こさない精度の高い検知システムが要求される。ブルートゥースを使った簡単なセンサーも開発した。このシステムなら、タブレットと連携しながら住居内を見守る仕組みを1万円以下の価格でつくることができる。

 一方、「ロボットと都市の共生」という観点からの研究も進んでいる。具体的には、車椅子をロボット化し、道路や建物から位置情報を与え、対話して車椅子を動かすものだ。九州のロボット特区で実施している。

 2015年度から介護ロボットが介護保険の対象となり、今まで100万円していたロボットが10万円の負担で家庭に入ってくるようになる。この意味でも、今年は人とロボットが共生する“元年”である。

 ロボットと共生する空間を構想することは、まさに建築・都市空間と人間の関係を考えることだ。そこに建築の専門家が、本領を発揮できるフィールドがある。どのような生活支援ができるか、ニーズをきめ細やかに想定しながら、社会に普及可能なモデルを構築していきたい。

三上美絵(ライター) [日経アーキテクチュア

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