公共インフラを再定義する

―街全体の安全性を高める、という公共的な文脈においても、民間企業が果たす役割は無視できません。

越智(セブン&アイHD) コンビニエンスストアなどの小売店舗は、消費者に非常に近い場所にあるで、街の中で果たしていく役割は、より高い公共性が求められているところがあると考えています。2020年に向けた都市の安全・安心を考えていく場合、小売業に限らず、民間企業も社会公益を強く意識していく必要があるのではないでしょうか。

佐藤(東京都) 都では、みずほ銀行と「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化に向けた連携に関する協定」を結び、建物所有者への相談体制の整備や普及啓発などを行っています。東急電鉄は「耐震化アドバイザー」の協力会社として、建物所有者への耐震診断・改修に関する技術的相談などに乗ってもらったり、セミナーを共同開催したりしています。

―社会公益と、事業としての利益は、トレードオフではなく同じベクトルに向かっていく部分もあるわけで、そのあたりを受け入れる行政施策をぜひ考えてほしいところです。

 今年3月に内閣府が公表した「大規模地震防災・減災対策大綱」には、そうした視点も見られます。小売店やコンビニエンスストアの早期営業再開のため、輸送車両などについては国や自治体などが「救助・救急、医療、消火活動の車両に影響を与えないと認められる期間経過後から段階的かつ速やかに通行できるよう、あらかじめ仕組みを検討しておく」という方針を打ち出しました。

野城(東京大学) 公共セクターがやることだけが公共性を持っているというわけではありません。我々の生活がどれだけそれに依存しているかが公共性の原点であり、そこから都市の安全・安心を考えなくてはなりません。

小板橋(日建設計) 最低基準である建築基準法の5割増しの強度を確保すれば、現在最も安全とされるレベルの建物は実現できます。その際、耐震性を高めるのに手をつけるのは構造躯体だけなので、建設コストは10%か20%の積み増しで済む。その分を投資するかしないかで、安全性に大きな差が出るのです。

 指定された避難施設以外でも、コンビニエンスストアなど街の拠点となっている施設に対しては、施設の安全・安心を高める対策には助成をするなどしてもいいでしょう。

前田(オイレス工業) 免震のレベルなど建物の性能に応じて、避難施設として十分な役割を果たせるレベルの施設を「松」というように、ランクを明示しておけば市民も安心して避難できるし、都心部では帰宅困難者の一時避難所として機能させることもできるでしょう。

―新しい公共インフラとは何かを再定義していくと、そこには何らかのプライオリティーが生まれます。最先端の技術開発は、このプライオリティーに基づいて投入していくことになるのでしょうか。

野竹(清水建設) 実は、防災や防火の技術開発に携わるなかでジレンマを感じることがあります。

 私たちは優れた対策を提案して導入してもらう立場にいますが、災害が発生したときに被害を受けるのは一番弱い箇所です。意識の高い発注者が持っている建物の安全性が高まる一方で、そうでない建物とのギャップが広がってしまう。技術を開発して「突出」を目指すことは大切ですが、全体の「底上げ」も同じく重要です。突出と底上げを両立させる仕組みが必要ではないでしょうか。