Part.1での6つのプレゼンテーションを受け、2020年を見据えた安全・安心な都市づくりの在り方と課題について議論した。「技術融合でいかにイノベーションを起こすか」「公共インフラの再定義の必要性」など、主要論点ごとにディスカッションの発言要旨を再構成してお届けする。
イノベーションを起こすには
―東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、東京をはじめとした日本の都市基盤の整備についても2020年という1つの目標が設定されたといえると思います。この目標を視野に入れながら、都市の安全・安心を高めていくには、関連技術をどのように融合し、展開させていけばよいのでしょうか。
野城(東京大学) イノベーションは、「開発→生産・実装・適用→効果評価→レビュー」という作業を繰り返すなかで、常に行きつ戻りつしながら新しい意味を加えていく取り組みから生まれてきます。新たな可能性は、技術とニーズを適切にマッチングしていくことで開かれていきます。
藤沢(シンクタンク・ソフィアバンク) 今、私は「スポーツ・文化ダボス会議」の準備に携わっています。2016年、世界から若手リーダーやアスリート、アーティストを東京に呼ぶ計画です。世界経済フォーラム(ダボス会議)のクラウス・シュワブ会長の提案を受け、下村博文・文部科学大臣が中心となって開催に向け指揮を執られています。
今年9月に北京で開催された夏季ダボス会議でも、アーティストと都市機能を融合させた展示があったのですが、アーティストは今、新しい技術を探し求めています。都市でセンサーやモニタリングの先端技術の使い方をアーティストに考えてもらうと、面白いアイデアがいろいろ出てきそうです。また、2000人規模の参加者が予定されているので、彼らに協力してもらって街中で様々な実験ができるかもしれません。
Part.1で話題に出てきたようなセンシングやモニタリングの技術は、その際にいろいろ活用できるのではないかと想像が膨らみました。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、訪日客に「未来の都市」を体験していただくことも大事です。その予行演習的なことが2016年に実現できればと思っています。各企業が持っている様々な先端技術や知恵を借りて、安全・安心のソリューションも含め、新しい可能性を描く場にしていきたいですね。
越智(セブン&アイHD) 商品という形でイノベーションを生み出す過程では、ユーザーが納得する理由や物語をきちんと提供することが大切です。コンビニエンスストアの商品開発は、いわばそうした物語づくりの繰り返しです。他社が100円で売っているおにぎりで、150円の商品を開発する。これを買っていただくには、そのおにぎりがなぜおいしいかという物語に納得してもらい、食べておいしいと感じてもらわなければなりません。ユーザーが判断できる材料や物語を提示する仕組みは、どの分野でも必要だと思います。
野城(東京大学) 建築・土木業界は、物語づくりがあまり上手ではありません。物差しをつくっても業界内の物差しになってしまいがちで、実際に利用するユーザー視点が弱いと感じます。
影広(日立製作所) モチベーション・マネジメントという考え方が有効ではないかと思います。例えば、構造物の老朽度合いなどの情報を計測機器などで常に収集してビルオーナーにも分かりやすく見える状況をつくる。そうすることによって、オーナーが思い描いている建物の状態と現状との差が明らかになり、改善への意欲を促すことが期待できます。
―公共建築の場合、オーナーだけでなく多くの人に状況が見えるようにするとよさそうですね。
菅沼(TTES) 私が携わっている土木構築物のセンシング分野でも、住民参加型で情報を集めて発信する仕組みをつくれば、多くの利用者のモチベーションを高められるかもしれません。より安全な街をつくるための、広域モニタリングへと発展させる可能性も感じています。
別の観点ですが、災害時には、影広さんに先ほどご説明いただいたプラント維持管理のためのAR技術が使えるかもしれません。この技術は様々な情報と場所の情報を細かくリンクできる点が面白いですね。避難上どこの経路が危ない、建物や橋など避難経路上のどこにどんな問題があるといった情報を集約して見せることができれば、災害時に一目で把握しやすい情報として役に立つでしょう。