菅沼久忠氏 すがぬま・ひさただ TTES代表取締役社長 維持管理問題を解決する専門家集団として2004年にTTESを設立。公共構造物の調査・診断、構造解析、補修補強検討、モニタリングの設計・施工、データ分析を主な事業とする(写真:栗原克己)
菅沼久忠氏 すがぬま・ひさただ TTES代表取締役社長 維持管理問題を解決する専門家集団として2004年にTTESを設立。公共構造物の調査・診断、構造解析、補修補強検討、モニタリングの設計・施工、データ分析を主な事業とする(写真:栗原克己)

 当社は東京工業大学発のベンチャー企業で、公共構造物の維持管理コンサルティングを行っている。特に、鋼製橋梁の金属疲労や腐食問題に知見を持つ。橋梁などの設計書や図面から損傷シナリオを策定し、シナリオに従ってセンサー類を設置し、センサーで取得したデータをモニタリングする。必要に応じて、データを損傷シナリオにフィードバックすることもある。

電子と土木で意識にずれ

 一連の業務を進める中で気付かされたのが、土木インフラの維持管理現場とセンサー類を提供する電子機器・部品メーカーなどとの意識のギャップだ。

 電子機器・部品業界と土木業界では、製品の成り立ちや性質など、異なる点が多い。工業製品は大量生産だが、土木構造物は一品生産だ。このため、モニタリングする際も、対象の橋梁ごとに仕様を変える必要がある。また、センサーの使用環境も工業分野(工場内など)と土木分野(主に屋外)では異なる。

 さらに、両業界では、数字の感覚もケタが違っている。土木分野と既存のセンサーとは期待する領域が異なっているためだ。土木業界ではコンクリートのひび割れなどをミリメートル単位で把握できればよいが、エレクトロニクス分野で使う変位センサーの分解能はマイクロメートル単位だ。時間の感覚も、長寿命の土木構造物のモニタリングでは季節変動や経年変化をみる必要があり、少なくとも3年は継続してモニターできるシステムが必要である。加速度の計測においても、土木業界では長周期の1Hzクラス以下が要求される。

●センサーで構造物をモニタリングするプロセス
(資料:TTES)
(資料:TTES)

●センサーの使用環境の違い(工場と土木現場)
(資料:TTES)
(資料:TTES)

 ほかにも意識のずれは存在する。例えば、山奥に設置するセンサーについて相談すると「加速度計はあります。無線ユニットもあります。ただ、実装がまだです」といった調子で、すべてがバラバラに提供されてしまう。“差し込めば計測が始まる”というくらいにまでソリューションとして作り込まれていなければ、土木業界では使いこなせないが、センサー提供側にそうした意識はないようだ。今後、インフラの維持管理を高度化していく過程では、こうした部分をうまくつないでいくことが重要になってきそうだ。