石川と岐阜の県境にそびえる白山。その標高2000mの辺境で、人と自然の闘いを象徴する工事がひっそりと進む。日本最大級の土塊量を誇る甚之助谷の地すべりを抑制するため、国土交通省北陸地方整備局が2008年度から実施する排水工事だ。飛島建設が施工を手掛ける。

白山の標高約2000mで、甚之助谷の地すべりを抑制するために、排水トンネルの掘削が進む(写真:日経コンストラクション)
白山の標高約2000mで、甚之助谷の地すべりを抑制するために、排水トンネルの掘削が進む(写真:日経コンストラクション)

 甚之助谷の地すべり防止区域の標高は1200~2600mと高い。高山地の地すべりは全国でも珍しい。地すべりの土塊量は約3800万m3と、東京ドーム約30杯分の容量に匹敵する。

■甚之助谷の地すべり範囲と工事位置図
飛島建設の資料と国土交通省北陸地方整備局の資料・写真をもとに日経コンストラクションが作成。白山の御前峰の標高は2702m。航空写真は石川県側の南西斜面を撮影している
飛島建設の資料と国土交通省北陸地方整備局の資料・写真をもとに日経コンストラクションが作成。白山の御前峰の標高は2702m。航空写真は石川県側の南西斜面を撮影している

 現在、飛島建設が手掛けている排水トンネル工事は、主に甚之助谷の左岸ブロックの安定を図るためだ。同ブロックの地すべりを助長するのは、隣の万才谷(まんざいだに)から岩盤を通して浸透する流水だというメカニズムが分かってきた。

 そこで、万才谷の上流部から、甚之助谷の反対側に位置する赤谷へ水を流すために、387mの排水トンネルを掘っている。

■排水トンネルの目的
(資料:国土交通省北陸地方整備局)
(資料:国土交通省北陸地方整備局)

右が甚之助谷の地すべり区域。左の谷にかすかに見えるのが万才谷の現場。万才谷の流水が河床の亀裂を通り、甚之助谷の左岸ブロックに浸透して地すべりを助長する恐れがある。そのため万才谷から排水トンネルを写真左側に向かって掘り、甚之助谷への流入を防ぐ(写真:日経コンストラクション)
右が甚之助谷の地すべり区域。左の谷にかすかに見えるのが万才谷の現場。万才谷の流水が河床の亀裂を通り、甚之助谷の左岸ブロックに浸透して地すべりを助長する恐れがある。そのため万才谷から排水トンネルを写真左側に向かって掘り、甚之助谷への流入を防ぐ(写真:日経コンストラクション)