都市災害は一度に起こる

 だがここで、少し想像力を発揮して欲しい。自動車事故は何百万台も走っている自動車のうち、1台、2台で起こる。ところが地震被害は建物1棟にだけ生じるわけではない。大量の建物が一度に傾いて住めなくなってしまえば、都市の機能は失われる。邪魔になる傾いた建物は持ち主が取り壊すべきだが、大問題すぎて誰も議論していない。

 自動車と都市に建つ建物とでは、本質的にリスクのありよう、目標性能の論理が異なるということだ。

 数百年に1度の大地震が起こったとき、機能が維持される都市とは、傾く建物の発生確率が低い都市だ。今から300年後に地震が発生すると仮定して、何棟かが傾いても、ほとんどは倒れないという状態〔図2〕が理想的だ。要求性能を固定して技術の進歩をコストダウンのみに向けるのではなく、耐震化の歩みを止めず、より高い耐震性を持つ建物を都市に普及させていかなければならない。

〔図2〕永続する都市の概念図
都市にはさまざまな建築物が建てられているが、大地震時に被害を受ける確率が低ければ、都市全体の機能は維持される(資料:和田 章・東京工業大学名誉教授)
都市にはさまざまな建築物が建てられているが、大地震時に被害を受ける確率が低ければ、都市全体の機能は維持される(資料:和田 章・東京工業大学名誉教授)

 日本の建築基準法は、狭い日本列島を細かく区分し、地震の発生確率について地域係数を設けている。だがもはや、日本全国どこでも地震が生じる可能性はあると考えておくべきなのではないか。