多くの超高層ビルを保有し、管理・運営している森ビルでは、安心感の醸成まで踏み込んだ安全対策に取り組む。震災の教訓を生かし、「逃げ込める街」を実現できるかが問われていると土橋徹構造担当部長は語る。(日経アーキテクチュア)

土橋 徹氏(写真:木村 輝)
土橋 徹氏(写真:木村 輝)

大地震時に「逃げ込める街」へ

 森ビルが毎年実施している東京23区内のオフィスニーズ調査によると、「耐震性の優れたビルに移りたい」というニーズは常に高く、立地の良さを求めるニーズとほぼ同レベルの結果が出ている。この高いニーズに応えるため、「逃げ出す街」から「逃げ込める街」を目指すという方針を掲げ、対策に取り組んできた。

 耐震対策ではまず、超高層の建設で制振装置に重きを置いてきた。

 六本木ヒルズ森タワーを例に取ると、東日本大震災の本震の際、森タワー最上階の54階で実際に観測された変位は32cmだった。制振装置を使わない計画だった場合、変位は2倍に達した可能性があったことが、震災後の研究で分かった。森タワーを制振装置なしで計画していたと仮定して構造解析を実施したところ、揺れが最大61cmに達していた。