被災度を客観的に説明

 森ビルではこうした大災害時の説明責任を果たすため、「地震直後建物被災度推測システム」を13年7月に導入し、運用を開始した。例えば建物各所に配置したセンサーで得られた変位から、主要構造部に損傷を受けた可能性があるかを即座に判定し、アナウンスにつなげる。躯体だけでなく、固定されていない什器などが転倒するレベルだったか、天井が脱落するレベルだったかまで揺れのレベルを判定できる。

 このシステムは複数のビルで稼働しており、得られた情報は社内情報として共有している。パソコンやスマートフォンなどから見ることができる〔写真1〕。さらにブレークダウンした情報を「災害ポータルサイト」に開示し、ビルがどのような状態にあるかを防災担当者が情報共有し、災害時の初動行動に役立てる〔図1〕。

〔写真1〕モバイル端末で即座に共有
スマートフォンや携帯電話の画面に表示された「地震直後建物被災度推測システム」の画面。センサーで得たデータをもとに、被害を推定する(写真:森ビル
スマートフォンや携帯電話の画面に表示された「地震直後建物被災度推測システム」の画面。センサーで得たデータをもとに、被害を推定する(写真:森ビル

〔図1〕大地震時の「災害ポータルサイト」
災害の状況を分かりやすく伝えるポータル画面。地表で震度6強の揺れが観測された際を想定した例(資料:森ビル)
災害の状況を分かりやすく伝えるポータル画面。地表で震度6強の揺れが観測された際を想定した例(資料:森ビル)

 テナントには海外企業も多い。日本人は地震に慣れているが、外国の方々の中には「自分の身は自分で守る」とばかりに、非常階段を駆け降りていく人もいる。より安心感を持ってもらえるように、アナウンス方法を工夫するなど、さらに理解を得る必要があるだろう。

 また、海外企業の日本事務所のテナントからは、大地震でも建物に問題がなかったことを本社に報告したい、書類として示してほしいというニーズもあった。この際も、観測データに基づく判断を示すことで納得が得られた。「長周期地震動は危ない」と言い募るだけでなく、「大丈夫だった」ということも積極的に開示しなければ、海外企業は日本に事務所を構えなくなるのではないか。

 減災への取り組みに終わりはない。当社では建物だけでなく、公開空地に設置した巨大アートなどについても、エンジニアが点検を進めている〔写真2〕。鋼製であれば鋼製の構造として考え、支点となるのはどこか、物理的挙動はどうなるかなどを考慮しながら、劣化状態を確認している。

〔写真2〕巨大アートも構造エンジニアが点検
六本木ヒルズの公開空地に設置された巨大アートを点検する様子。モニュメントなどの工作物を含め、安全・安心が求められるのは建物のみとは限らない(写真:森ビル)
六本木ヒルズの公開空地に設置された巨大アートを点検する様子。モニュメントなどの工作物を含め、安全・安心が求められるのは建物のみとは限らない(写真:森ビル)

 従来、こうしたアートなどは構造エンジニアの分野外という考え方もあったが、運営者としては安全確保への取り組みが敷地全域に及ぶのは当然だ。今後の維持管理では、「安全・安心」の意識を敷地全体にまで広げ、考えていく必要もあるだろう。