東京湾岸を海の森に

 1964年の東京オリンピックの会場として、丹下健三氏が設計した「国立代々木競技場」が完成したとき、世界は驚いた。あの吊り構造を着想した感性と、それをつくり上げた日本人の技術力と心意気は、世界の賞賛を浴びた。私たちの世代は丹下建築を見て育ち、建築家に憧れた。

 あれから40年後、私は表参道ヒルズの設計を手掛けた。表参道の風景であるケヤキ並木を超えないように高さを抑えつつ、必要なボリュームを満たすため、あの建物は地下30mもの深さになった。敷地の幅は狭く、真横を地下鉄も走っているので、非常に難易度の高い施工になったが、施工者は実に見事に成し遂げ、世界中から来た見学者が、「日本人はすごい」と感心していた。

 渋谷駅も地下30mあるが、とかく地下空間は自分の居場所が分かりにくい。そこで、この駅では2つの大きな吹き抜けを設け、立体的に視線が交錯する街として駅をつくった。吹き抜けを利用した換気でカーボンゼロの駅も目指した。クリアすべき多くの法的課題を1つずつ解決していき、都市を魅力的にする計画として行政も許可を出した。

 東京の臨海部では、数年前から埋め立て地の廃棄物処分場跡地を、森にする取り組みを進めている。市民からの募金で苗木を買って植林を進めてきた。内陸にある皇居や明治神宮といった大きな森と、この海の森を合わせると、合計で約100ヘクタールの広大な都市の森になる。湾岸部には、もう1つ100ヘクタールほどの処分場があり、それも森にすれば素晴らしい。

 東京は、全体の計画はしっかりしているから、そこに魅力的なものを重ねていくといい。そのためにも必要なのは、一人ひとりが自分なりのビジョンを持ち、そのための努力を続けることだ。そうすれば、東京はきっと世界一の都市になる。