採光や通風の条件が厳しい住宅の密集する都心部で、シミュレーションを重ねながら工夫を凝らして自然エネルギーを活用した新築住宅だ。ソフトウエアの進歩をテコに経験の積み重ねによる最適解を追求している。


 太陽と風を制する者は、都心のパッシブ設計を制す――。

 「オープンルーフのある家」はそんな表現がぴったり当てはまる住宅だ。受注物件の大半が都心の住宅密集地に位置するという参創ハウテック(東京都文京区)が手掛けた。

2階のLDKからインナーテラスと水回りを見る。天窓で集熱を図るとともに、断熱と遮熱の性能を持つ可動扉を取り付けることで、温熱環境を調整している。第5回サステナブル住宅賞を受賞(写真:参創ハウテック)
2階のLDKからインナーテラスと水回りを見る。天窓で集熱を図るとともに、断熱と遮熱の性能を持つ可動扉を取り付けることで、温熱環境を調整している。第5回サステナブル住宅賞を受賞(写真:参創ハウテック)

 海外生活の長かった建て主は、自宅の新築に当たり「自然を身近に感じられる暮らし」「カーテンのいらない開放的な家」というイメージを描いていた。これに沿うよう、「LDKを2階に計画し、積極的に自然との接点を探した」と、参創ハウテックの設計部門である関連会社、カサボン住環境設計の井田晋介氏は話す。

 立地条件は厳しい。目の前にアパートがあり、南側にLDKを配する一般的なプランではプライバシーの確保が難しい。そこで、最南側に水回りを並べて外からの視線を遮り、内側にテラスとLDKを配置した。

北面から見た外観。周辺は、日照も景色のよさも望めない典型的な都市型住宅街。東側と北側の前面道路は抜け道になっており交通量が多い(写真:参創ハウテック)
北面から見た外観。周辺は、日照も景色のよさも望めない典型的な都市型住宅街。東側と北側の前面道路は抜け道になっており交通量が多い(写真:参創ハウテック)

 設計に当たり、まず着手したのは通風シミュレーションだ。参創ハウテックで環境設計を手掛ける阿式信英氏は、風の扱い方についてこう話す。

 「住宅の密集する都心部では、風向きが卓越風向と逆になることもある。しかし、“曲がる”という風の特性を逆手に取れば、建物の形態によって風を取り込んだり、出したりできる」

 隣家を組み込んでモデルを生成し、卓越風向の条件でCFD(数値流体シミュレーション)を実施した。すると、卓越風向が南南西の7月は、この敷地には東側の道路から風が吹くことなどが判明。そこで、ウインドキャッチを狙って接道側に中庭を配した。

通風シミュレーションによって、東側道路からの主風向をキャッチするようにテラスを配置した(資料:参創ハウテック)
通風シミュレーションによって、東側道路からの主風向をキャッチするようにテラスを配置した(資料:参創ハウテック)