Interview1
次の時代を見据えて従業者用の環境も整備
――今回のリニューアルのポイントは?
このレストランのオープンは1997年で、2005年に改装しました。そこから10年たって、さすがに飲食を取り巻く環境も変わってきた中で、今の時代に合った考え方を反映させたいというのがひとつの大きな狙いでした。
飲食業界では今、人の奪い合いが起こっています。そうした中でどうやったら生き残っていけるか。そこで、従業員側の環境をよくしてあげるのが大切ではないかと考えました。
レストランのスタッフ用スペースというのは、最後に余った個所に押し込んだりして休憩する場所もなかなか確保できない。でも、次の時代を見据えるなら、裏側をちゃんとしたグレードに整備する必要がある。そこには、会社としてスタッフをこれだけ大事にしていますよというメッセージを込めています。
接客しているのはやはり現場のスタッフですからね。いわゆる顧客満足だけではなくて、従業員満足というのをしっかり考えて店をつくらないといけない。ちょうど裏の倉庫、隣のオフィスの一部が空いたので、そこをスタッフのためのスペースにしたのです。
一方、お客様のスペースに関して、最大のポイントは中の空間と外のテラス席との間の壁を開けたことです。
今、ガラス窓になっている部分は元々、壁でした。壁によって仕切られていたので、中と外のスペースが完全にバラバラだった。でも、皆さん外がやはり大好きなので、テラス席に座りたがる。中へ案内すると、こちらも申し訳ない気分になるし、お客様にも「テラスの方が良かったのに」という気持ちが残ってしまう。
今回、壁の一部を抜いて一体感のある空間にしたので、いやな席がなくなった。店をつくる時、悪い席をいかになくすかは大きなテーマです。今回の改装で、環境は非常によくなったと思います。
有名建築のリノベーションも
――まちづくりのアプローチは意識されていますか?
弊社は、その地域の中でオンリーワン、かつナンバーワンを目指しています。地元の人たちから「このエリアならこの店だよね」と思ってもらえる、コミュニティーの核になる店づくりですね。
湾岸は店が必ずしも長続きしない場所なのですが、そういった立地で人を呼び込んできました。このエリアにとっての集客の核であり、かつ地域活性化のキーとなる存在かな、と。
特にここには運河という最大の財産があって、この運河をこれだけ活用している施設も少ないと思います。どうしても普通は、室外機が置いてあったり、バックヤードがあったり、と運河に背を向けた建物になりますからね。運河を正面に臨むロケーション。我々はそれを最大の資源として使ってきたつもりです。
――この店やエリアをさらに活性化させるために仕掛けていることは?
ちょうど夏に向けてスイーツの店をオープンしようとしています。スイーツ類は今、ボンドストリートキッチンというケータリングでつくっていますが、製造工場でありつつ、小売りもする店を、このボンドストリートに設ける準備が進んでいます。
ゆくゆくはコーヒーの大きな焙煎工場を建てるとか、ビール工場の拡張も考えたい。大勢の人が、その見学に来る。具体的なプランはまだないのですが、そういう施設をつくれたら楽しいと思っています。
――天王洲以外でリノベーションへの取り組みは?
表参道の案件は面白かったですね。シカダというレストランなのですが、元々ある企業の社員寮でした。建築設計が芦原義信さんで、それを弊社で全面的にリノベ-ションしたのです。
何しろ元が素晴らしいので、50年前の古い建物でも、きちんとお化粧することによって、これだけスタイリッシュになるのだ、と。同店もまた、表参道の中ではかなり核となる店に育っています。