女性の一人客がワイングラス片手に読書していたり、カップルがパラソルの下で談笑していたり、お母さんたちが子供を遊ばせながら食事していたり。西武池袋本店の本館9階に位置する屋上に生まれた「食と緑の空中庭園」では、幅広い年齢層の客が男女を問わず、思い思いに時間を過ごして楽しんでいる。これまでには見られなかった光景だ。

南側から見た全体の様子。午後8時までは電球色の照明が点く。円形のウッドデッキの下部に仕込んだ照明が床のタイルを照らし、水に浮かぶ蓮の葉のイメージを強調している(写真:佐藤振一)
南側から見た全体の様子。午後8時までは電球色の照明が点く。円形のウッドデッキの下部に仕込んだ照明が床のタイルを照らし、水に浮かぶ蓮の葉のイメージを強調している(写真:佐藤振一)

 改修前の屋上には、うどん店とガーデニングショップ、フィッシュショップしかなく、各店に固定客はいたが、残りは空き地同然。「ターミナル駅の真上」という抜群の立地を有効活用しているとは言い難かった。一方、他の百貨店では近年、集客のひとつの要として屋上をリニューアルして、効果を上げている。そこで、西武・そごう(社名はそごう・西武)も旗艦店である西武池袋本店の屋上リニューアルに乗り出すことを決めた。

 西武・そごう側は、以前から西武池袋本店の構造改革に関わっているデザイナーの廣村正彰氏(廣村デザイン事務所代表)に話を持ち掛けた。屋上を緑化して飲食店を増やしたいという要望に廣村氏は、「『この屋上で時間を過ごしたい』という目的意識を高め、この場所に来てもらう理由を明確にするためには空間にテーマが必要だと考えた」という。そして、西武・そごう側の発案から、印象派の画家クロード・モネが愛した庭園や彼の絵画作品「睡蓮」にインスピレーションを得て、テーマを「水と緑で四季を感じる庭園」と設定した。

 そうしたテーマを具現化できるランドスケープデザイナーとして廣村氏が声をかけたのが、アースケイプ代表の団塚栄喜氏だ。「団塚さんは夢を描ける人。与えられたテーマに対して、こちらの想像以上のものをつくってくれると期待した」と話す。

2015 Summer 特別編集版・表紙。西武池袋本店「食と緑の空中庭園」のウォーターテーブルを見る(表紙写真:佐藤振一、表紙デザイン:キガミッツ)
2015 Summer 特別編集版・表紙。西武池袋本店「食と緑の空中庭園」のウォーターテーブルを見る(表紙写真:佐藤振一、表紙デザイン:キガミッツ)