少子高齢化が進み、人口は減り、縮退社会に向かう今、私たちはこれまでと同じ方法で働いたり暮らしたりしていてもいいものか。社会構造のひずみに目を向けて、ソリューションとクリエイティビティが一体となった仕事を実践する二人に、自分・地域・社会を貫く課題や、その解決のアイデアを聞いた。
自分・地域・社会を貫く視点を持つ
馬場 今あるものを使い、リノベーションを通じて新しい価値を生み出そうとするまちづくりや仕事づくりの動きが、全国に広がっています。リノベーションという手法が定着しつつある中で、身近な場所や生活に埋もれていた価値を見いだす眼力のある個人も増えてきました。
そうした人たちのあいだで、量的な成長の時代から引きずる社会構造に与せず、自分の手で仕組みからつくり上げる静かな革命、とでもいうべき動きが起こっている。お二人の活動には、そんな時代の傾向がはっきり現れているように感じています。まず、今の仕事に就くことになった経緯をお聞かせください。
宮崎さんは、東京の谷中でHAGISOというカフェを運営していますが、出身は建築ですか?
宮崎 コテコテの建築畑の人間です。東京藝術大学の大学院を修了後は磯崎新アトリエに就職し、海外の大きな公共建築の設計に携わらせてもらっていました。日本では公共建築が活用されなくなったまま建ち残り、ランニングコストだけでヒーヒー言っていることを知りながら、かつての日本のような建設ラッシュの中国にいる、という状況でしたね。退社後、2006年から11年まで住んでいた木賃アパートをリノベーションして、今はそこでHAGISOというカフェを運営しています。
馬場 何がきっかけだったのですか?
宮崎 お寺の住職でもある大家さんが、震災を機に建て替えを決めたことです。僕たち入居者は、建物に“死に化粧”を施して別れを惜しむ「ハギエンナーレ」という葬式イベントを開催しました。建物自体を作品にするというもので、開催中に延べ1500人もの来場者がありました。オーナーもこの状態を存分に楽しんでくれたのですが、「壊すの、もったいないかも」とつぶやいたのを僕は聞き逃さなかった(笑)。あわてて、新築案、駐車場案、リノベーション案という3パターンの利回りを提示して「いちばん利回りがいいのはリノベですね」と用意しておいた設計案を出したところ、熱意を買ってこの案を受けてくれまして(笑)。それで、カフェ、ギャラリー、美容室を併設する施設をつくりました。
僕はここを「最小文化複合施設」とうたっているんですが、公共のお金を使わずとも民間で公共施設がつくれるということが示したくて、持続可能な自立した経済サイクルをつくって運営しています。
馬場 次に、寺脇さんは売れっ子のケータリングシェフですが、最初から食関係の勉強をしたというわけではないのに、なぜそれを始めたのですか?
寺脇 親から税理士を継いでほしいと言われていましたが、全然向いていないことがすぐ分かって。海外旅行で様々な国を訪れる中でアンティークの洋服や家具が大好きだと気付き、それらを個人輸入してリメイクして売る、という仕事を学生時代から始めました。 でもある時、雇っていた人に店のものを横領されるという事件があり、精神的に大きなダメージを受けて…もう、全く違うことをしようと考えたんです。以前から興味のあった「食」を仕事にしようと思い立って、海外でのパーティー参加の経験をヒントに、ケータリング事業を始めました。
馬場 横領…すごい経験ですね。転向したのは何歳の時でしたか?
寺脇 30歳です。料理人の世界は15、6歳から勉強を始めるのが普通なので、15年分を巻いて追い越すためには独立してやるしかない、という覚悟がありました。他と差別化を図るためにギリギリまで食材原価率を上げたり、パーティーを行なう企業の特徴が際立つようなメニュー開発を心掛けていくと、次第に飲食業にも出たいファッション会社からプロデュースを頼まれるようになり、今ではフードコンサルとケータリングの仕事が半々です。6年前からは都内の各国大使館に子どもを集めてのイベントも手掛けています。