民間有識者でつくる日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)の首都圏問題検討分科会が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」が話題だ。東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)の高齢化対策として、「地方移住」を提言したことが議論を呼んでいる。

 日本創成会議では、高度成長期に東京圏に流入した住民の多くが高齢化し、75歳以上の後期高齢者が2015年の397万人から2025年には572万人へと、175万人も増加すると試算している。東京圏の増加数は、全国の増加数の実に3分の1を占めることになるという。現状のままでは今後、東京圏で医療・介護施設が不足するとして、解決策の一つに地方移住を掲げ、受け入れ能力のある41圏域をリストアップした。

日本創成会議の首都圏問題検討分科会が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」(資料:日本創成会議)
日本創成会議の首都圏問題検討分科会が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」(資料:日本創成会議)

 この提言を受けて、東京都の舛添要一知事が6月5日の定例記者会見で面白い発言をしている。以下はその抜粋。

一生懸命、働いた。50代になって行けというけれども、マイホーム、一生懸命、頑張ってローンを組んで買ったわけですよ、東京に。それが、売り払わないといけない。売れますかと。元取るぐらいに売れますかと。それで、私はもともと福岡だから、例えば、では、私は福岡に帰りたいと。女房、ついてくるか。そんなところ行きたくない、あんた、1人で勝手に行け。皆さん、配偶者、どうですか。特にお勤めしていて働いている人、あんた、旦那、勝手に行きなさいということになる。子供を抱えていて、子供が受験だったら、今、学校に行っているの、どうなのか。

 その通りだと思う。舛添知事の発言は、入学や就職で地方から東京圏に移住した人、あるいは東京圏で生まれ育った人の実感を代弁している。UターンにしろIターンにしろ、地方は医療・介護施設が整っていて生活費も比較的安いと分かっていながら、なかなか東京圏から移住できない人は多いのが実情だろう。

 昨年5月の「消滅可能性都市」もそうだが、日本創成会議は議論を巻き起こすために、あえて乱暴な言い方をしてけんかを吹っ掛けているように見える。「高齢者が追い立てられて地方に移住させられる」というイメージが一人歩きしている提言だが、移住は定年後の高齢者に限らない。「ついのすみか」として地方移住を高齢者だけに促すのではなく、定年前の元気な現役世代のうちに移住できる選択肢もつくるべきだというのが趣旨だと考える。

一つの場所に縛られない生き方も

 移住という言葉からは「一方通行」の印象を受けるが、そうではなく気軽に東京圏と地方を行ったり来たりできるようになってもいい。せっかく巨費を投じて新幹線や高速道路を全国に張り巡らせているのだから、一つの場所に縛られない生き方は実現できるはずだ。

 一つの場所に縛られず生きるためには、舛添知事が代弁したような数々の制約を乗り越える必要がある。特に現役世代は制約が多い。移住先に希望する働き口や住まいがなかったり、子供を通わせたい学校がなかったり、親の介護が満足にできなかったり、自宅の売却時に含み損どころかオーバーローンになったりするようでは、うかつに移住するわけにはいかなくなる。

地方創生担当大臣の石破茂氏。6月3日に日経アーキテクチュアや日経コンストラクションなどが主催した「東京大改造シンポジウム」で、「地方創生における東京」をテーマに講演した(写真:ケンプラッツ)
地方創生担当大臣の石破茂氏。6月3日に日経アーキテクチュアや日経コンストラクションなどが主催した「東京大改造シンポジウム」で、「地方創生における東京」をテーマに講演した(写真:ケンプラッツ)

 「東京をどうするか、地方をどうするか。これらの問題は一体で考えなくてはならない」。6月3日に日経アーキテクチュアや日経コンストラクションなどが主催した「東京大改造シンポジウム」の基調講演で、地方創生担当大臣の石破茂氏はこう語った。

 いくら医療・介護施設のベッド数が余っているからと言われても、人は移住したくなるわけではない。東京圏からの移住を促すことと、地方にも魅力ある働きの場や住まいの場をつくることは、日本の人口減少と高齢化の問題を解決するための両輪となる。それらがうまく回らないと、地方は労働力人口が流出する中でやがて消滅し、一極集中していく東京圏は高齢者にとって今以上に住みづらい街となってしまうかもしれない。

 地方創生は国策なので、地方移住にも多くの財政資金が投じられるはずだ。しかし、そのお金を移住の受け入れ先で施設づくりにばらまくのではなく、一つの場所に縛られない生き方を実現するために費やしてもらいたい。東京圏とか地方とかに関わらず、自由で柔軟な働き方や住まい方が可能になれば、仕方なく移住させられるのではなく、様々な世代が自らの意思で様々な場所に移住したくなると思う。