既存の街では「仕掛け」が必要

――横浜市の取り組みを踏まえつつ、国内外の案件に関わっている村岡さんからまずお話しいただけますか。

村岡元司氏 NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット 本部長 パートナー(写真=中村宏)
村岡元司氏 NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット 本部長 パートナー(写真=中村宏)

村岡(NTTデータ経営研究所) 私どもはコンサルティング会社として、自治体や民間企業とともにスマートプロジェクトの立ち上げや実証実験の支援を行っています。海外案件にも関わっていますが、新たなスマートシティの構築では日本はトップレベルです。柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)やFujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)では、民間主導で資金を準備し、「スマート」を売りに太陽光発電システムや蓄電池、HEMSなどを標準搭載した住宅を通常の1.2倍~1.3倍の価格で販売しました。エリア全体の魅力を保つための組織づくりなどが、新たな不動産価値として認められた結果だと思います。

 一方で、既存の街のスマート化は、なかなかうまくいきません。例えば、地域に密着している不動産会社がネットワークを築きながら、地域をスマート化してエリアの価値を上げていく仕掛けづくりなどができれば効果が上がるのではないでしょうか。

平松(ヴォンエルフ) 私は、国際的グリーンビル認証「LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)」のコンサルティングをしています。LEEDは、建物の環境、健康、快適性といった性能を認証する制度です。米国ではLEED認証を取得したビルは、賃料や入居率が高いというデータが出ています。

 日本ではREIT(Real Estate Investment Trust)に大変な勢いで資金が流入し、運営・管理物件も急増中です。一方、エネルギー使用量の報告を義務付ける自治体が増えてきました。将来は、報告だけではなく削減義務の規制も入ってくると見ています。

 エネルギーの計測とその報告、削減などにかかるコストや、そうした規制に事後的に取り組む場合の費用増のリスクを考慮し、REITがグリーンなビルに投資することについて、投資家が一定の価値を急速に認め始めていると感じます。

――そうした流れになると、環境・エネルギー面の日常のメンテナンスがビジネスとして成立しなければ、やはり続かないのではないでしょうか。

野田省吾氏 日本メックス 営業本部 営業企画部長(写真=中村宏)
野田省吾氏 日本メックス 営業本部 営業企画部長(写真=中村宏)

野田(日本メックス) 当社は施設の維持管理や改修を手掛けており、費用を縮減しながら資産価値を高める「バリューアップ・リニューアル」を提唱・推進しています。

 ただ、環境に対する提案、例えばBAS(中央監視システム)やBEMSの更新を提案するとき、何年でどのくらいコスト削減効果を出せるという証明がなかなか難しく、補助金とセットでないとお客様に意思決定していただきにくいということもあります。コミッショニングや省エネルギーチューニングの提案をする場合、第三者による評価の仕組みが必要だと感じます。

 また、いわゆるESCO(Energy Service Company)事業の枠を超えて、お客様の不動産改修に1億円以下程度の規模で自ら投資し、改修によってエネルギーを削減して投資を回収できれば、三方一両得のビジネスが成り立つのでないかと考えています。

市野英二氏 合同産業 環境エネルギー事業本部 首都圏営業部 部長(写真=中村宏)
市野英二氏 合同産業 環境エネルギー事業本部 首都圏営業部 部長(写真=中村宏)

市野(合同産業) 当社の主な事業は施設管理です。施設管理というのは、どうしても単体で考えがちですが、当社は街全体でのエネルギー制御にも目を向けています。オフィスや店舗、住宅では、それぞれ電気の使い方が異なります。共働きの家庭では昼間、ほとんど電気を使わなかったり、工場であれば増産時にだけ電気が余分に必要になったりします。街全体でこれらを最適に制御できれば、トータルの電気使用量を減らせるはずです。

 今後、電力小売の完全自由化で、電気の買い方も多種多様になりますが、契約をどうしてよいか分からないユーザーも多いので、街全体という観点も含め、コンサルティングの立場で関わっていけたらと考えています。

中山一平氏 イオンディライト 代表取締役社長(写真=中村宏)
中山一平氏 イオンディライト 代表取締役社長(写真=中村宏)

中山(イオンディライト) 当社はイオングループのファシリティーマネジメント(FM)会社です。日本のほか、中国、ASEAN各国でも事業展開しています。

 エネルギーソリューションの取り組みにおいて、省エネ機器の販売ではなく、維持管理をビジネスとしてしっかり成立させるには、計画の初期段階からコミットさせてもらうということが一番大事になってきます。我々は、特に商業施設や病院、ホテルなど不特定多数の人が出入りする施設の維持管理に力を傾けてきました。「熱だまりがどこに、どのように生じるのか」といった経験に基づくノウハウを計画に生かしてもらうような、エネルギーソリューションまで含めたトータルなコンサルティングを担うことができればと思っています。

――持続可能な街では、再生可能エネルギーが大切な要素になります。さらなる普及には、もう一歩踏み込んだ仕掛けが必要になりそうです。

奥地誠氏 奥地建産 代表取締役社長(写真=中村宏)
奥地誠氏 奥地建産 代表取締役社長(写真=中村宏)

奥地(奥地建産) 当社は2002年頃から太陽光発電所の設計、架台製作、調達などを行ってきました。再生可能エネルギーは、地域で発電した電気を地産地消できる魅力のある産業です。

 ただ、今の固定価格買取制度は、基本的に、通常の電気代に料金を上乗せして皆さんが支払っているので、グリッドパリティ(ある発電システムの発電コストが、既存電力と同等になること)の早期達成が望まれます。これを実現するには、太陽光発電業界、自治体、施主、消費者に至るまで横串を刺した活動や組織が必要ではないでしょうか。

那須原和良氏 清水建設 ecoBCP事業推進室 室長(写真=中村宏)
那須原和良氏 清水建設 ecoBCP事業推進室 室長(写真=中村宏)

那須原(清水建設) 私が所属するecoBCP事業推進室では、建物や街づくりにエコやBCP(事業継続計画)、LCP(生活継続計画)の考え方を取り入れています。村岡さん同様、そのなかで私たちも既存街区をどうするかが問題だと感じています。

 そこで、既存街区で大きなビルを建て替えるときには、ビル単体というよりも街区や地域まで考慮してエコやBCPの機能を入れ始めています。“向こう三軒両隣”で、エネルギーを融通し合って効率化する。その街区をつなぎ合わせていけば街づくりになります。

 そのときに、情報や電力をネットワーク化できるような街の“共助力”が重要です。横浜市ほどの自治会加入率の達成は都心や新興団地では難しい。街区の価値を、エネルギー分野に偏らずに「コベネフィット」などとして総合的に評価できるようになれば、推進力を持つのかもしれません。

小泉雅生氏 首都大学東京大学院 教授、建築家(小泉アトリエ)(写真=中村宏)
小泉雅生氏 首都大学東京大学院 教授、建築家(小泉アトリエ)(写真=中村宏)

小泉(建築家) 僕は、つくば市の建築研究所内にLCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅を設計しました(2011年4月完成)。住宅の建設から運用、廃棄までのCO2排出量の収支を省エネや再生可能エネルギーの創エネなどにより、合計でマイナスにするというものです。

 スマートシティを新たなビジネスにつなげようとすると、とにかくいろいろなモノをオプショナルに加えていくという方向に議論が終始しがちです。しかし、そうして加えていったモノに関わるエネルギー(CO2排出量)についても、もっと考えるべきだと思います。

 もう少しロングスパンでスマートシティの姿を捉えなければ、我々は街づくりを見誤るのではないでしょうか。例えば、新規開発の郊外住宅地では短期の価値が求められるので、最近は1区画が非常に小さい。しかし、街の持続可能性を考えて二世帯住宅への建て替えなどを視野に入れるならば、区画が小さいのは望ましくないはずです。