防災に対する個々の要素技術が進化してきたなかで、今後いかにこれらを統合し、安全・安心を確保した街づくりに結び付けていくか。都市再開発における森ビルの取り組みをベースにハード、ソフト両面から議論した。
――これまで森ビルは、安全・安心に対する取り組みをフルパッケージにして都市再開発を進めてきました。ハード、ソフト両面の具体策をご紹介いただけますか。
北川(森ビル) 当社は1960年代以降、木造の商家や住宅、2~3階建てのビルが建ち並ぶ港区内の地域で、周辺の地権者とともに進める再開発を手掛けてきました。その際に最優先の“1丁目1番地”としてきたテーマが、火災や地震などの災害に対して安心・安全な街をつくり上げることです。
耐震については、2000年以降に建てた全てのビルに免震と制振のシステムを採用し、新耐震基準レベル以上の性能を確保しています。所有しているいくつかのビルには地震計を取り付け、地震発生時に揺れのデータを観測して瞬時に社内の構造設計部に送るシステムを構築しました。地震計による揺れのデータ、とそれぞれの耐震性能を踏まえて構造設計部が各ビル内の安全性を判断し、緊急時の誘導を指令する仕組みをつくることを考えています。
耐震性のほかに、阪神・淡路大震災以降に注視するようになったのが、ビル内での生活や事業を継続できるようにするということです。そのために欠かせないのが、電気とエレベーターと水になります。そこで、エレベーターの地震対策、コージェネレーションシステムでもある自家用発電機の導入、非常用井戸の設置を行ってきました。
2012年に竣工したアークヒルズ仙石山森タワーには、ガスと重油によるデュアル式の非常時用発電機を採用しました。非常時に、想定する電力需要の80%から85%ぐらいを賄うことができるようにしています。
ソフト面での対策も重要で、例えば防災要員社宅を用意しています。我々が運営するビルのほとんどは港区内の新橋、虎ノ門から赤坂、六本木のエリアに集まっています。そこで六本木ヒルズからおよそ2km圏内に社宅をつくり、約100人の社員を住まわせているのです。いざというときには拠点となる六本木ヒルズ、アークヒルズ、虎ノ門ヒルズに集合し、様々な活動に取り組めるように訓練も行っています。