4 官民の役割分担、官民連携の在り方を今後どう考えるか?

――官民連携の重要性を指摘する声が高まっています。しかし、それぞれが公共性と事業性という異なるベクトルを向いているため、なかなか前に進まないという構図があります。

村岡元司氏/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット 本部長 パートナー。スマートシティの構想策定からビジネス実現までに携わる(写真=都築雅人)
村岡元司氏/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット 本部長 パートナー。スマートシティの構想策定からビジネス実現までに携わる(写真=都築雅人)

村岡(NTTデータ経営研究所) 民間企業の場合、経済性の確保は前提とならざるを得ません。自治体と仕事をしていても、例えば防災拠点をつくる計画では結局、公的資金に頼るしかないことが多いのです。

 その点、先ほど話の出た分散型エネルギーにおける上下分離は、1つの解決策を示す事例だと思います。超長期で回収する必要があるインフラは公的資金で賄い、上の部分は民間企業が担う。ビジネスになりやすい人口密集地とそうではない場所で上下分離の比率は変わるでしょうが、それらに対してきちんと合意して進めることが運営上は重要になるはずです

――ファイナンスの官民連携についてはいかがでしょうか。

平松(ヴォンエルフ) 最近注視しているのは、学校、団地など今後、かなり余ってくる公共施設の問題です。これらを集約して複合化していく際に官の資金だけでは立ち行かないので、民と官の資金をいかに連携させて進めるのかが課題となります。

 その際に有効なツールとなるのが、LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)やCASBEE(建築環境総合性能評価システム)などの認証制度です。エリア単位の認証については、例えばLEEDのネイバーフッド (ND)の場合、仕組みが縦割りでは取得できません。関連する分野における官民の連携や、投資に関しても民間の投資家と公共の資金とを合わせて進めることが条件になります。多様なプレーヤーがいるなかで一定の規律を持たせるためにも、こうした認証制度を活用すべきでしょう。

信時正人氏/横浜市 温暖化対策統括本部 環境未来都市推進担当理事。国が「環境未来都市」に選定した横浜市で、その推進役を務める(写真=都築雅人)
信時正人氏/横浜市 温暖化対策統括本部 環境未来都市推進担当理事。国が「環境未来都市」に選定した横浜市で、その推進役を務める(写真=都築雅人)
保井美樹氏/法政大学 人間社会研究科 教授。英米のBIDなどエリアマネジメントにおける官民連携や、その財源・組織を研究している(写真=都築雅人)
保井美樹氏/法政大学 人間社会研究科 教授。英米のBIDなどエリアマネジメントにおける官民連携や、その財源・組織を研究している(写真=都築雅人)

信時(横浜市) 世界では官民ファンドが常識だと実感した出来事があります。3年ほど前「インフラストラクチャーに向けたファンディング」をテーマにした 国際会議に出席した際、参加国のなかで公共のお金だけで事業を考えているのは日本だけでした。そうした方法があるということも視野に入れたほうがいいのか もしれません。

――その意味では、地権者から集めた負担金などを地域活動に投入するBID(Business Improvement District)の仕組みが注目されていますね。

保井(法政大学) 人口が減少して将来の税収増加を見込みにくいこれからの時代に、地域に対して誰かが簡単に投資してくれると期待するのは難しい。多様な資源を総動員する仕組みをつくることが求められているのです。そこで大切な法則は4つあると考えています。

 第1は、できるだけお金の掛からない方法で最大限の効果を生み出していくこと。第2は、そのためには従来は公共的とされた場も民間で使い、そこからお金を生み出す仕組みを考えていくこと。第3は、一企業ではなし得ないので、地域のなかに共同で民間の担い手をつくり出し、育てていくこと。第4は、これを受ける行政も、地域組織とともに多様な問題に対応できる包括的な仕組みを持つことです。

 ニューヨークにはこの数年で、歩行空間や公園、水辺の公共地帯など人が集うことのできる公共空間がかなり増えました。規制緩和によって様々な人たちが利用できる空間を生み出し、行政と契約を結んだ地域団体が多彩な活動を行っています。これを支えるのがBIDです。

 BIDでは、基本的に地域の不動産所有者たちがお金を出し合い、行政サービスに上乗せした治安維持や清掃、街のPRなど地域の人たちが必要だと思う活動にあてます。ポイントは、みんなが少しずつお金を出し合い、それまで収益性のなかった場所からお金を生み出すことです。その過程ではいろいろな規制緩和が必要で、行政の対応が不可欠となります。

――こうした規制緩和について、国はどのように考えていますか。

田村 計氏/国土交通省 都市局 大臣官房審議官。総合政策局 政策課長、道路局担当の大臣官房審議官などを経て現在に至る(写真=都築雅人)
田村 計氏/国土交通省 都市局 大臣官房審議官。総合政策局 政策課長、道路局担当の大臣官房審議官などを経て現在に至る(写真=都築雅人)
寺澤達也氏/経済産業省 商務流通保安グループ・商務流通保安審議官。経済産業政策局 産業政策課長などを経て現在に至る(写真=都築雅人)
寺澤達也氏/経済産業省 商務流通保安グループ・商務流通保安審議官。経済産業政策局 産業政策課長などを経て現在に至る(写真=都築雅人)

田村(国土交通省) 国交省が進めているタウンマネジメントに対する支援では基本的に、地方がそれぞれ自由に取り組めるようにと考えています。参考になるのが、道路局が20年ほど前に始めた「道の駅」という施策です。国は道の駅の認定制度をつくっただけで中身は地元市町村に委ねた格好でしたが、高い成果を上げています。タウンマネジメントに関わる施策も、同様の方向を目指しています。

 一方で、規制緩和や行政権限の在り方のような根幹の議論は、しっかり整理しなければなりません。占用許可などの権限を行政以外にどう委譲するかなどは、理論的にきちんと詰めていく必要があります。

寺澤(経済産業省) 財政的なリソースに制約があるなかで、経産省も規制緩和を重視しています。2014年の中心市街地活性化法の改正でも規制緩和を盛り込みました。

 一例は、道路を利用するオープンカフェです。道路法などの規制によって従来は使いにくかった道路を、基本的に自治体の権限でオープンカフェなどに利用できるようにしました。

 なお、これまでの中心市街地活性化で比較的成功しているのは、地元の民間事業者などが本格的にコミットしている事例です。抽象的な「民」ではなく、地元にリーダーがいて、地元の人たちが徹底的に議論し、お金も出し、土地も出していく。そういう実質的に民主体の事業を応援していきたいと思っています。

――今日はマネジメントや規制緩和などに対する指摘がありました。総括して感じたことをお話しください。

明石(東京都市大学) 地球温暖化防止やCO2の削減というテーマは決して色あせていませんが、都市のレベルでは感じ取りにくい動きになっています。それを日常の活動のなかで可視化することも、次世代の都市づくりに向けて大切になると思います。

 先ほど話に出たモビリティーを例に取れば、乗り物が変わってくると街も変わらざるを得ません。時速20km程度で走る超小型ビークルなどは60kmで走る自動車とは異なり、顔が見える新しい交通の担い手になるのではないかと思います。日本発の技術革新で生まれたこうしたアイデアを、次世代の都市づくりに結び付けていく思考が必要ではないでしょうか。