3 防災など安全・安心面からの持続可能な都市づくりとは?

――まず、都市の防災に対する民間の動きについてお聞きします。

中山一平氏/イオンディライト 代表取締役社長。イオン系施設管理大手の「総合FMS(ファシリティマネジメントサービス)」企業を率いる(写真=都築雅人)
中山一平氏/イオンディライト 代表取締役社長。イオン系施設管理大手の「総合FMS(ファシリティマネジメントサービス)」企業を率いる(写真=都築雅人)
前田 隆氏/オイレス工業 代表取締役副社長 免制震事業部長。オイルレスベアリング、免震機器の分野を主導するメーカーで中核の部門を率いる(写真=都築雅人)
前田 隆氏/オイレス工業 代表取締役副社長 免制震事業部長。オイルレスベアリング、免震機器の分野を主導するメーカーで中核の部門を率いる(写真=都築雅人)
桑原淳一氏/THK ACE事業部・執行役 事業部長。免震、制振機器の応用技術を持つパイオニア企業で事業部門を率いる(写真=都築雅人)
桑原淳一氏/THK ACE事業部・執行役 事業部長。免震、制振機器の応用技術を持つパイオニア企業で事業部門を率いる(写真=都築雅人)

中山(イオンディライト) イオングループでは東日本大震災に際して約3週間、石巻市の高台にあるショッピングモールに最大2500人の被災者を受け入れ、食事や寝るための場所を提供しました。そうした経験から、防災拠点として商業施設を用いることの有効性を実感しています。

 現在は、エネルギー戦略の1つに「まもろう作戦」を掲げ、地域の防災拠点の役割を担うための取り組みを進めています。イオンのショッピングモールのうち100施設を地域の防災拠点と位置付け、2020年までに自家発電設備やコージェネを装備する計画です。各地域の行政と連携しながら作業を進めています。

前田(オイレス工業) 当社は免震システムを展開していますが、「建物だけ守る」というところから「人の生活」や「建物内の機能」を守るところに視点を移 してきました。そのなかで、地方と都市をつなぐ物流や、ライフラインの中継地点など社会インフラをどう守るかにも関心を寄せています。

 ところが電気、ガス、水道のインフラでは免震や制振のシステムに対してあまり意識が及ばず、耐震化のみというのが実情です。免震システムの有効性などを実証しながら、より経済合理性にかなう技術を蓄積して社会に展開していきたいと考えています。

桑原(THK) 免震化が付加価値となって建物の資産価値を高めた事例もあります。ただし、インフラの分野となるとコストの高さから取り組みが鈍くなっているのかもしれません。

 いずれにせよ、インフラの防災面に対しては、さらなる対策が必要です。例えば、免震や制振の技術について官民を挙げたコンペを開催する。施工も含めた簡便化を図り、建物以外にも十分に使い得るコストに引き下げる提案が出てくるのではないでしょうか。

加藤(東京大学) コンペは素晴らしいアイデアですね。日本の要素技術はどんどん進化していますが、同時に、要素技術を上手にコーディネートして都市システムのなかに埋め込んでいくような発想が必要です。

金谷(東京工業大学) 企業や地方自治体が、レジリエンスの向上に対し、どれだけ貢献しているのかを評価する仕組みの構築も重要です。

 内閣府の調査によると、住宅耐震化率を100%にすれば首都直下型地震でも9割以上の方が亡くならずに済むと言います。この課題を突き詰めることも重要でしょう。その際、建物の安全性を評価して資産価値を担保する方法を確立すれば、事業主にお金の余裕がなくても耐震化などの防災に対する投資が可能になるはずです。長く住み続けることのできる建物づくりにも結び付きます。

――自治体との取り組みのなかでは何が課題になっているのでしょうか。

田島 泰氏/日本設計 執行役員 都市計画群長 スマートシティ計画室長。総合建築設計事務所内で、スマートシティ計画に携わる(写真=都築雅人)
田島 泰氏/日本設計 執行役員 都市計画群長 スマートシティ計画室長。総合建築設計事務所内で、スマートシティ計画に携わる(写真=都築雅人)
加藤孝明氏/東京大学 生産技術研究所 准教授。都市計画、地域安全システム学、まちづくりを専門分野として研究に携わる(写真=都築雅人)
加藤孝明氏/東京大学 生産技術研究所 准教授。都市計画、地域安全システム学、まちづくりを専門分野として研究に携わる(写真=都築雅人)

田島(日本設計) 先端的な自治体では、森ビルさんが再開発地で取り組んでいるような安全・安心の考え方を、いかに自治体レベルの規模に展開していくかという議論を行っています。

 そこで最も重要になっているのは、マネジメントを誰が担うのかという問題です。限られた再開発地ならば、事業主であるデベロッパーが主導する図を描きやすい。一方、都市レベルの規模では自治体が先導することになると思いますが、自治体単独で行うのは難しい。ではどういう組織がどういうふうに連携しながら進めるのか。これが課題です。

加藤(東京大学) 担い手という点では、3.11以降、市民や地域社会をはじめとする民間の力を引き上げていくことが不可欠だと感じています。全体を底上げする際は「市民先行、行政後追い」という型ができることが望ましい。タウンマネジメントの種も、市民が先行していく取り組みのなかで育っていくのではないでしょうか。

北川(森ビル) 2003年に開業した六本木ヒルズでは、森ビルが中心となり、住民やテナント企業の自治会と協力してエリア内のタウンマネジメントを行ってきました。その後、近くに東京ミッドタウンや国立新美術館が誕生したのを機に、東京都の支援を得ながら毎春、六本木アートナイトというイベントを開催しています。こうしたように1つのテーマの下で関係団体が顔見知りになるところから、次への展開が始まります。まずは日常のコミュニティーの力を育むことが重要だと思います。