1 人口減少、少子高齢化を前提に都市をどのように再編するか?

明石達生氏/東京都市大学 都市生活学部 教授。行政実務に精通し、都市計画制度などを専門分野として研究に携わる(写真=都築雅人)
明石達生氏/東京都市大学 都市生活学部 教授。行政実務に精通し、都市計画制度などを専門分野として研究に携わる(写真=都築雅人)
平松宏城氏/ヴォンエルフ、一般社団法人グリーンビルディングジャパン共同代表理事。第一人者としてLEEDのコンサルティングを手掛ける(写真=都築雅人)
平松宏城氏/ヴォンエルフ、一般社団法人グリーンビルディングジャパン共同代表理事。第一人者としてLEEDのコンサルティングを手掛ける(写真=都築雅人)
谷口博司氏/富山市 都市整備部 次長。富山港線のLRT化や市内電車の環状線化など、市における公共交通の活性化事業に取り組んでいる(写真=都築雅人)
谷口博司氏/富山市 都市整備部 次長。富山港線のLRT化や市内電車の環状線化など、市における公共交通の活性化事業に取り組んでいる(写真=都築雅人)

――人口減少、少子高齢化を踏まえた持続可能な都市づくりで、カギを握るテーマは何でしょうか。

明石(東京都市大学) 国は2014年に都市再生特別措置法を改正し、コンパクトシティ形成を目指す立地適正化計画の制度を取りまとめました。約10年かけてコンパクトシティに対するコンセンサスを得て、やっと法制度化にこぎつけたわけです。

 次は、コンパクトになった市街地をどう住みやすくするかについて、より具体的な政策をつくる段階になります。自動車対策が中心だった従来の基盤整備では、個々の人間が孤立してしまいがちな面がありました。これからは地域力やソーシャルキャピタル(社会関係資本)を醸成できる基盤整備を推進し、お互いに顔の見える関係をつくりやすくしていくことが重要です。

平松(ヴォンエルフ) コンパクトシティについて議論する際、海外ではウォーカブルであることとバイカブルであることを重視します。歩けると同時に、「バイ」には自転車と多様性の両方の意味をかけています。さらにレジリエンス(強靱性)にも目を向けています。

――立地適正化計画は「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」を掲げています。ネットワークの1つを担う交通の先駆的な事例が、富山市のLRT(次世代型路面電車システム)です。

谷口(富山市) JRから富山港線を引き継ぎ、富山市が主体となる第3セクターの富山ライトレールを2004年に立ち上げて再整備しました。採算性については、公設民営の考え方を導入しています。人件費、動力費、その他運行に関わる経費は富山ライトレールに責任を持たせ、富山市は施設の建設、更新改良、 維持管理を担う形です。

 富山ライトレールは開業以来、黒字を保っていますが、富山市は施設の維持管理に年間7000万円の補助金を投じています。地方都市では、税金の投入がないとネットワークを維持していけません。開業にあたっては、市長から事務担当者までそれぞれが多くの場で説明を重ね、市民の理解を得てきたという経緯があります。

村岡(NTTデータ経営研究所) 持続可能性には、環境、経済、社会それぞれの側面があります。コンパクトシティを形成する際、経済的な持続可能性を確保するためには環境的な持続可能性が欠かせません。

 また、コンパクト化を進めた街で、中心街から離れた地域に住み続けている住民が「市役所に行くのに不便だ」と指摘する、といった話を聞きます。フィジカルなつながり、情報通信によるつながりの両面から関係性を維持し、社会的な持続可能性を高める工夫が重要ではないでしょうか。

――コンパクトシティの話を広げると、都市間連携や東京のような大都市の在り方の議論も視野に入ってきますね。

小宮大一郎氏/総務省 自治行政局市町村課 課長。新たな広域連携を進める「地方中枢拠点都市」制度の整備などに関わる(写真=都築雅人)
小宮大一郎氏/総務省 自治行政局市町村課 課長。新たな広域連携を進める「地方中枢拠点都市」制度の整備などに関わる(写真=都築雅人)
北川 清氏/森ビル 取締役常務執行役員、都市開発本部 計画統括部 統括部長。都心部の開発事業を通じ、まちづくりに携わる(写真=都築雅人)
北川 清氏/森ビル 取締役常務執行役員、都市開発本部 計画統括部 統括部長。都心部の開発事業を通じ、まちづくりに携わる(写真=都築雅人)
河野晴彦氏/大成建設 常務執行役員 設計本部長。国内外で建築・土木の設計・施工、エンジニアリング、都市開発などの事業を展開する(写真=都築雅人)
河野晴彦氏/大成建設 常務執行役員 設計本部長。国内外で建築・土木の設計・施工、エンジニアリング、都市開発などの事業を展開する(写真=都築雅人)

小宮(総務省) 全国には現在、政令指定都市と人口20万人以上の中核都市が61都市あります。これらを核に複数の市町村が連携する地方中枢拠点都市圏づくりを進めていますが、そこには3つのポイントがあります。

 1点目は、経済成長をけん引することです。例えば広島には自動車産業を軸に技術力のある会社が集まるほか、広島大学をはじめとする研究機関もあります。こうした地域における産学のノウハウを結集し、自動車関係の技術を福祉やロボット、環境など別の分野に転換しながら新産業の創出を目指していきます。

 2点目は都市機能の向上で、医療と交通が中心になります。3点目は老人福祉関連の施設や保育園など、身近な生活サービスの市町村間連携です。

 人口減少社会に向けて地域が生き残る拠点となるために、自治体間がもっと多様な形で連携していくことを目指しています。

北川(森ビル) コンパクトシティとネットワークという考え方は、東京の都市構造にも必要なものです。森ビルの森稔(前会長)が生前しばしば、東京は平面的に過密だけれども立体的には過疎だと語っていました。もっと街を超高層化して立体的にもコンパクトにつくれば50%以上の空地が生まれ、よりよい環境を生み出し得るはずだという考え方です。

 また、非常時にも電気やエネルギーの供給を続ける仕組みが不可欠となっています。世界やアジアにおける都市間競争を勝ち抜くためにも、コンパクトシティと自立分散型エネルギーを軸にした街づくりが必要です。

河野(大成建設) 再開発した新しい地域と既存の地域をどう連携させるかという課題もありますね。新旧のエリアが複合したネットワークを形成していくと、BCP(事業継続計画)などに考慮した再開発の街に、既存の街にいる人たちが逃げ込むケースが生まれるでしょう。

 地方都市であれば、既存のプールを図書館にする、デパートを美術館にするといったコンバージョンの事例が多数あるので、それらとの連携も必要です。持続可能性を目指すなかで、そうした顔の見えるネットワークの形成を核に街が活性化していくのではないかと思っています。