田村計(たむら・はかる) 1960年生まれ。84年東京大学法学部私法コース卒業後、建設省入省。国土交通省土地市場課長、政策課長、大臣官房審議官(道路局)などを経て、2014年に同(都市局)に就任し、現在に至る。(写真=中村 宏)
田村計(たむら・はかる) 1960年生まれ。84年東京大学法学部私法コース卒業後、建設省入省。国土交通省土地市場課長、政策課長、大臣官房審議官(道路局)などを経て、2014年に同(都市局)に就任し、現在に至る。(写真=中村 宏)

 これまで日本の都市計画法は、極端に表現すれば、「更地を対象に、開発圧力をうまくコントロールしながら秩序ある街づくりをしていく」というものだった。そうした取り組みを経て、ある程度、地域の整備はストックされてきた。今後、人口減少や少子高齢化の問題に対峙しつつ、既に整備された街をリニューアルすることになる。そのためには、「時間軸を持って誘導するような、緩やかな仕組み」が必要になると考えている。

 国土交通省が掲げる「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」のベースは、そうした考え方がある。2014年3月に取りまとめた「国土のグランドデザイン」の基本戦略の1つで、開発行為を規制するのではなく、時間軸を持ち、あるエリアの街づくりを誘導いていこうというものだ。

既製服の街からオーダーメードの街づくりへ

 具体的には、医療や福祉施設、商業施設や住居がコンパクトにまとまった都市域をつくり、高齢者をはじめとする住民が公共交通によってアクセスできる都市構造を目指している。

 手順としては、まず、街づくりの担い手となる市町村が、民間事業者や住民代表などと議論を交わしたうえで、「立地適正化計画」を策定する。計画では、「都市機能誘導区域」や「居住誘導区域」を定めるほか、将来の都市像として目指す姿を盛り込む。国が、こうした街づくりへと誘導するために必要な特例措置や税制措置を施し、計画をサポートしていく、という仕組みだ。

 あるエリアの中で、都市域の誘導という概念を実施するのは、国土交通省としては初めてのことだ。例えば1992年に施行した「地方拠点法」では、国が「地方拠点都市地域」(14年4月時点で約80地域)を指定し、当時の国土庁や建設省、厚生省がそれぞれの施策を持ち寄り、政策資源を集中して投入するという方法で進めてきた。

 要は従来の街づくりでは、全国のどこかに国が重点的な地域を定め、予算や人を集中して投入してきた。コンパクトシティ・プラス・ネットワークはそれとは異なり、いわば「手挙げ方式」だ。やる気のある地域が自分たちの目指す将来計画をつくって国に提出し、国はマラソンランナーの伴走者のように、その実現を応援していく。

 今後は、既にでき上がっている街をどう使い、どう直しながら持続させるかが問われる。更地から街をつくる段階では、既製品の背広でよかったのかもしれない。しかし、既にでき上がっている街を出発点とする今は、そのつくり方がオーダーメードにならなければいけないということだ。

 コンパクトシティ・プラス・ネットワークを実現する道具立ての1つに、「エリアマネジメント」がある。地域の良好な環境や価値を維持・向上させることを目的とする、住民や事業主、地権者などによる主体的な取り組みのことだ。

 例えば、住宅地であれば建築協定を運用して良好な街並みを形成していく取り組みもその1つ。商業地であれば広場などでイベントを開催し、地域を活性化させていく取り組みもその1つだろう。そこに住む関係者などが話し合いを重ねて計画をつくり、街づくりの中身については地域に応じて好きなことに挑んでもらう。こうしたエリアマネジメントの主体は、市などの自治体の単位では大きすぎる。公益法人をつくって街づくりを進める方法ではなく、よりスモールサイズの団体が公共団体に近い役割を担うようにする。地面や建物など即物的な意味でのエリアは、そうした団体に管理してもらうのが望ましい。