人口が減り、住宅数が増え、国の住宅政策が新築偏重からストック重視へと転換するにつれ、住宅ストック市場が進展してきた。建設コスト上昇や職人不足、地価高騰などで、新築の割高感が顕著になってきたことも影響している。単なる修繕や交換を意味するリフォームと違い、用途や機能を変更して性能を向上させたり価値を高めたりする「リノベーション(リノベ)」という言葉も、徐々に市民権を得てきた。

 現時点の住宅ストックは玉石混交だ。耐震性や断熱性、省エネ性、防耐火性など、備えるべき基本性能が現行の基準と比べて見劣りする住宅も少なくない。耐震改修や断熱改修など、性能向上リフォームを施すのが一番だが、設計・施工の手間やコストアップが伴うため、なかなか実現できていないのが実情だ。

 中古住宅流通市場においても、多くの住宅ストックが低い性能のままで売買、賃貸されている。「性能向上よりも流通量を増やして市場を活性化させるほうが先決だ」――。既にストック活用に取り組んでいる実務者からはこう怒られるかもしれないが、やはり性能向上は不可欠だと考える。

 国は住宅ストックの価値を経年だけでなく、コンディションをきちんと評価する方向で検討を進めている。そのため、いずれは「性能が低い住宅=市場価値が低い住宅」が不動産取引の常識になる可能性は高い。性能向上リフォームは、その時になって慌てないためのリスク回避策の一つだ。

今年、耐震化率は90%?

 ここでは、性能向上リフォームの必要性について、データを示して伝えたい。

 まずは耐震性について。建築基準法に基づく現行の耐震基準は、1981年(昭和56年)6月1日に導入された。それ以前を「旧耐震基準」、それ以降を「新耐震基準」と呼んでいる。

住宅の建設時期別戸数。2013年住宅・土地統計調査(総務省、速報集計結果)を基に、居住住宅数を構造別(戸建て・長屋建て、共同住宅)および建設時期別にグラフ化した。構造別に「その他は」含まない(資料:日経ホームビルダー特別編集版「住宅ストック市場年鑑2015」)
住宅の建設時期別戸数。2013年住宅・土地統計調査(総務省、速報集計結果)を基に、居住住宅数を構造別(戸建て・長屋建て、共同住宅)および建設時期別にグラフ化した。構造別に「その他は」含まない(資料:日経ホームビルダー特別編集版「住宅ストック市場年鑑2015」)

 2013年住宅・土地統計調査(総務省、速報集計結果)によると、住宅総数約6063万戸のうち、「戸建て・長屋建て」と「共同住宅」の合計は約4780万戸ある。これを建設時期別に見ると、1980年以前(旧耐震基準)は約1411万戸で29.5%、1981年以降(新耐震基準)は約3369万戸で70.5%となる。

 一方、国土交通省のデータによると、新耐震基準の住宅の割合(耐震化率、旧耐震基準の耐震改修を含む)は2008年時点で約79%だった。耐震改修促進法に基づく国の基本方針では耐震化率を今年(2015年)に90%、政府の新成長戦略や住生活基本計画では2020年までに95%とする目標をそれぞれ定めている。国の施策どおり耐震化が順調に進んでいれば、今年、新耐震基準の住宅は90%以上になっているはずだ。

住宅の耐震化率の推移(資料:国土交通省)
住宅の耐震化率の推移(資料:国土交通省)

 しかし、「新耐震基準が90%以上になったから安心だ」とは、とても言えない現実がある。木造住宅の耐震基準は2000年(平成12年)6月1日に大幅に改正された。阪神大震災を受けて、壁量計算に配置バランスの考え方を導入したり、筋かいや柱の接合方法を細かく規定したりするなどして耐震性を強化した。つまり、現行の耐震基準は「新・新耐震基準」と言える。

 新・新耐震基準で建設された2000年以降の住宅は、上記で示した約4780万戸のうち約1305万戸となる。旧耐震基準や新耐震基準の住宅で耐震改修を実施しているものもあるかもしれないが、新・新耐震基準は少なくとも27.3%でしかないことがわかる。これが、新耐震基準に満足していてはいけない理由だ。

 次回は、省エネ性について考えたい。

大地震と木造住宅の耐震基準の進化。大きな地震被害を体験するたびに建築基準法を改正して耐震基準を強化してきた(資料:日経ホームビルダー、日経ビジネス「マンション・戸建て 中古の正しい選び方」)
大地震と木造住宅の耐震基準の進化。大きな地震被害を体験するたびに建築基準法を改正して耐震基準を強化してきた(資料:日経ホームビルダー、日経ビジネス「マンション・戸建て 中古の正しい選び方」)


 日経ホームビルダーは、「住宅ストック市場年鑑」を定期購読者に向けて発行しています。国や公的機関などが調査・集計したデータから重要と考えられるものを抽出し、都道府県別にコンパクトに分かりやすく整理しました。営業エリアの実情を把握し、地域特性に応じた将来像とその対応策を考えるためにお役立てください。市区町村別の詳細データを収めた「市区町村別 住宅市場データ2015」も発売します。


※このコラム記事は、ケンプラッツのFacebookページのコンテンツを加筆し、再構成しました。

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