国土交通省は1月30日、2014年の新設住宅着工戸数を89万2261戸と発表した。消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響が大きかった2013年と比較すると、9.0%もの大幅減少となる。持ち家は28万5270戸で前年比19.6%減、分譲住宅(マンション)は11万475戸で同13.4%減、分譲住宅(戸建て)は12万5421戸で同7.0%減。いずれもリーマン・ショックを受けて大幅に下落した2009年以来、5年ぶりの減少だ。

 一方、貸家だけは活況が続いている。36万2191戸で同1.7%増、3年連続の増加となった(関連記事:「89万戸で5年ぶり減、2014年の住宅着工戸数」)。

新設住宅着工戸数のうち、貸家、分譲住宅、持ち家の推移(資料:国土交通省の統計に基づいて作成)
新設住宅着工戸数のうち、貸家、分譲住宅、持ち家の推移(資料:国土交通省の統計に基づいて作成)

 新築の賃貸住宅が増える背景には、今年(2015年)1月1日に改正された相続税の影響が大きい。税金が掛からない基礎控除の額が6割に引き下げられ、地価の高い都市部を中心に課税対象者が大幅に増加している。その関係で、相続税対策の一つとして、土地の評価額を下げられる「小規模宅地等の特例」が適用できる賃貸住宅がもてはやされている。

 大都市の郊外にある新興住宅地では、戸建てやテラスハウスの賃貸住宅をよく見かける。多くは、デベロッパーが開発する前から住んでいた地元の大地主が所有する不動産だ。そのなかで最近、下の写真のような空き家が増えてきた。

大都市の郊外にある新興住宅地に建つ、戸建ての賃貸住宅。4棟あるが、すべて空き家のようだ(写真:ケンプラッツ)
大都市の郊外にある新興住宅地に建つ、戸建ての賃貸住宅。4棟あるが、すべて空き家のようだ(写真:ケンプラッツ)

 住宅地の開発から半世紀ほどがたち、賃貸住宅の老朽化・陳腐化が目立っている。その多くはファミリー世帯向けとしては狭く、住戸面積65m2に満たないような3DK・3LDKが多い。子どもが小さいか、3人程度の家族ならまだいいが、4人以上だとつらい間取りだ。

 築後年数が経過した古い賃貸住宅の多くは、耐震性が旧耐震基準だったり、新耐震基準でも2000年の改正建築基準法以前だったりして、大きな地震に対する備えが万全とは言えない。断熱性に劣る住宅も少なくなく、いくら家賃が低くても冷暖房の光熱費や医療費が高くついてしまう。

「建て替えてしまえ」

 相続税対策で賃貸住宅がどんどん新築され、人気がなくなった古い賃貸住宅は商品価値が低下して空室率が上がっていく。商品力を回復するにはまとまったコストが必要となるので、いきおい「建て替えてしまえ」になりがちだ。

 だが、建て替えて新築するとはいえ、賃貸住宅オーナーの主眼が節税だと、イニシャルコストを下げるために仕様はチープに抑えられ、耐震や断熱など住宅性能の向上は望むべくもなくなる。昨今の建設費の高騰で、住戸面積の拡大も当分は期待できそうにない。結局、築年が新しいものに置き換わるだけで、良質な住宅ストックを大切に使い続ける市場はいつまでたっても形成されない悪循環が続く。

 人口が減り、住宅ストックは増え、空き家率が上昇し、新築需要は減退しつつある。しかし、賃貸住宅だけは新築を追い求めてスクラップアンドビルドを繰り返している。税対策に振り回されて需給バランスを無視し、高度成長期と同じやり方を延々と続ける賃貸住宅市場は滑稽に見える。

 ファミリー世帯向けの賃貸住宅にバリエーションが少ないのもおかしい。住まい手のニーズは多様化しているのに、「ペット可」「DIY可」「カスタマイズ可」など、新しいコンセプトの導入が進んでいるのは単身や少数世帯向けが中心。ファミリー世帯向けの賃貸住宅は、いまだに持ち家にステップアップする前の仮住まい的な立場から脱却できていない。

 国土交通省は住生活基本計画における居住面積水準で、一般型誘導居住面積水準(戸建て住宅)を、4人世帯は125m2、うち3~5歳児が1名いる場合は112.5m2と定めている。総務省統計局の2013年住宅・土地統計調査(速報集計)によると、誘導居住面積水準(一般型と都市居住型の合計)の達成率は、持ち家74.4%に対し、貸家は32.0%にすぎなかった。住宅の広さは、持ち家に比べて賃貸住宅は到底及ばないのが実情だ。

 住宅ローン金利の低下基調が続くなか、「家賃並みの住宅ローン」が住宅販売の売り文句になっている。今後、金利が反転上昇する一方で、家庭の収入が増えなければ、持ち家志向は一気に冷え込む可能性がある。その時にファミリー世帯が住める、広く快適な住宅が賃貸市場に潤沢に存在しなければ、日本の住宅は再び「ウサギ小屋」に逆戻りするだろう。


※このコラム記事はケンプラッツのFacebookページのコンテンツを加筆し、再構成しました。ケンプラッツのFacebookページでは最新情報も発信しています。