発生から20年が経過した阪神大震災については、住宅の被災によって露見した欠陥住宅問題が最も強烈に記憶に残っている。当時は建築雑誌の日経アーキテクチュアで駆け出しの記者だった。同問題の取材を通じて学び取り、考えたことは、土木雑誌に転じた今の自分にも影響を与え続けている。

 欠陥住宅問題の取材で、被害を受けた消費者を支援する弁護士のサポートに力を注ぐ建築士の存在を初めて知った。震災前の取材では、建築士は自ら手掛ける建築設計に没頭するタイプが多いというイメージがあったので、新たな建築士像を発見したように感じた。時には訴訟で同業者や不動産会社を敵に回す活動ぶりは、建築・住宅市場で生きていくうえではむしろマイナスではないだろうか。建築士事務所の多くは株式会社、すなわち企業でもあるが、広い産業界には資本主義的な観点だけでは視野に収めきれない業態もあると実感したのだった。

欠陥の再発防止策にも欠陥?

 欠陥住宅問題は、法令や行政が決して完璧ではないと思い知るきっかけともなった。そもそも同問題は、建築基準法に基づく確認・検査制度の機能不全で発生したともいえる。国が完了検査率の向上による欠陥の再発防止を目的の一つに掲げて、同法の改正で導入した確認・検査の民間開放や、新法の住宅品質確保促進法も、後の構造計算書偽造事件では不備が露呈した。それならばと国が講じた新たな対策のうち、建基法改正による確認・検査の厳格化が、当初は制度運用の現場を大混乱に陥れ、新設住宅着工戸数を激減させたことは記憶に新しい。

 所属部署が住宅雑誌の日経ホームビルダーや土木雑誌の日経コンストラクションに変わっても、法令や行政の取材はしばしばある。不備や混乱の種を予見できるほどの洞察力は今も持ち合わせていない。だが、取材で国や自治体の見解をなるべくうのみにせず、「本当にそれで大丈夫ですか」と問い掛けるように取材するよう努めているつもりだ。筆者にとっての阪神大震災は、その姿勢の発端と位置付けてよいように思う。

建築基準法や住宅品質確保促進法の取材で足しげく通った建設省(現・国土交通省)。約束の時刻に訪ねた担当課の課長補佐が食事代わりの栄養補助食品を食べている最中で、「すぐ終わるから待ってくれ」と言われたことも。懸命さが印象に残った(写真:日経コンストラクション)
建築基準法や住宅品質確保促進法の取材で足しげく通った建設省(現・国土交通省)。約束の時刻に訪ねた担当課の課長補佐が食事代わりの栄養補助食品を食べている最中で、「すぐ終わるから待ってくれ」と言われたことも。懸命さが印象に残った(写真:日経コンストラクション)