建築を形づくる大切な要素の1つ、窓・開口部。省エネ性能が問われる機会が多いが、本来そこに求められる役割は多様だ。様々な機能の間に、どう折り合いをつけて設計するか。建築家の千葉学氏、建築環境を研究する早稲田大学教授の田辺新一氏、メーカーである三協アルミ社の阿見秀一氏が、それぞれの立場から語り合った。 進行:畠中克弘=日経アーキテクチュア編集長

(写真:中村宏)
(写真:中村宏)

――窓あるいは開口部について、今回は総合的に考えてみたいと思います。自己紹介を兼ねて日頃お感じになっていることをお話しください。

千葉 窓は確かに環境的な観点、それから風土的な観点で語られることが非常に多いと思います。ところが、世界中の窓を見てみると、同じような気候帯でも全然違う窓があったり、逆に全然違う気候帯でも似たような窓があったりします。環境や風土だけでは語り切れないほど文化的な側面を持っています。

 一方で、ここ何年かの動きを見ていると、いろいろな機能をどんどん統合し、高性能化することで、1つの窓で何でもできるという方向に向かっているような気がします。いろいろな窓や建具を組み合わせて可能性を広げることができるように、窓がもつ機能をいったんバラバラにしてみてはどうかと思っています。

風の流れを研究して窓を開発

田辺 私自身は建築環境の研究者です。もともと人間にとっての快適な環境や健康な環境に興味があって、この分野に入りました。きっかけは、大学院の修士課程を修了して博士課程の時にデンマークに住んだことです。

 実はそれまでは窓というと、そこから隙間風が入ってきて部屋を寒くするというイメージしかありませんでした。ところがデンマークでは、築100年ほどの家でも寒くありません。寒さを感じない暮らしというのを初めて体験し、その快適さが分かって、省エネを考える場合にも人の快適な暮らしを抜きにすることはできない、と思うようになりました。

 最近は「建材トップランナー」という制度がガラスやサッシも対象にするようになりました。もちろん、性能向上のための努力は欠かせませんが、性能というのは省エネ面だけで決まるわけではありません。多様な視点を失わないことが大切です。

阿見 快適な空間づくりのために、窓は非常に重要です。省エネはもちろん、眺望や防犯という要素もあります。それぞれ必要な機能に合わせたものづくりに努めるのが、私ども建材メーカーの役割だと考えています。

 快適な空間を提案するという点では、20年ほど前から風の流れを研究し、自然換気の機構を組み込んだサッシを製品化しています。2012年度にグッドデザイン金賞を受賞した「ARM-S@NAV」も、その流れから生まれた製品です。窓というのは、開けたくても防犯面で危ない、雨が降り込むなどの問題が生じ得るものです。それらをどう解決し、ものづくりに結び付けていくか。そこに一番苦心しています。

 今残っている問題は、音や臭いです。風を取り込むのと同時に、音や臭いも取り込んでしまうのでは困ります。これを防ぐことも、今後の研究開発のテーマになると考えています。

岐阜県労働基準協会連合会「労働衛生センター本館棟」/岐阜県岐阜市、2011年完成、設計:塚原建築研究所。三協アルミの高性能省エネサッシシステム「ARM-S」を採用している(写真:三協アルミ)
岐阜県労働基準協会連合会「労働衛生センター本館棟」/岐阜県岐阜市、2011年完成、設計:塚原建築研究所。三協アルミの高性能省エネサッシシステム「ARM-S」を採用している(写真:三協アルミ)