<<デザインビルド時代(3)設計は建設会社で十分?

 建築家ってなんだろう。設計者のうち、人をびっくりさせるのがとても上手な人が建築家を名乗るのだろうか。建築家を自称する設計者は設計事務所に多い。だが、設計と施工を両方手掛ける建設会社や工務店にも設計者はたくさんいる。その中には、人をびっくりさせるのが得意な設計者もいる。

 カッコいいデザインだけでなく、省エネも構造も施工もコストも購買も納まりもわかる設計者なら面倒がない。たとえ設計者がわからなくても、組織としてワンストップで対応してくれ、アフターサービスも受けられるなら、発注者は安心だろう。こう考えると、設計者は設計事務所でなくてもいいような気がする。

 デザインビルド時代に設計事務所が生き残るには、びっくりさせるスキルを磨くだけでなく、建設会社や工務店には真似できないきめ細やかで透明性の高いサービスを提供する必要があると思う。そうでないと、よほどのビッグネームにならない限り、設計事務所の存在感は薄くなる一方だ。単に、設計できます、監理できます、申請できます、検査できます――だけではもう厳しい。

住宅にまつわる困り事はたくさんある。その一つ一つの解決策を提示することも、設計事務所に求められる役割だ。日経ホームビルダー2013年6月号の表紙から(資料:日経ホームビルダー)
住宅にまつわる困り事はたくさんある。その一つ一つの解決策を提示することも、設計事務所に求められる役割だ。日経ホームビルダー2013年6月号の表紙から(資料:日経ホームビルダー)

 例えば住宅の場合、住み替えや不動産購入、資金計画、保証・保険、相続問題、ストック活用といった、発注者の住生活に根ざした困りごとの相談に乗るなど。単独での対応が難しいなら、各分野の専門家を集めてチームを組めばいい。あらゆる発注者ニーズに応えられるよう、設計事務所のカタチをどんどん変えていけばいい。

 要するに「何をデザインするか?」ということではないだろうか。デザインの対象は建物の設計に限らない。ビルや都市インフラといった非住宅プロジェクトなら、資金調達、維持管理、運営、ブランディング、街づくりなどもデザインできる。住宅プロジェクトなら、住まい手のライフスタイルや暮らし方、子育て、教育、介護、資産運用などもデザインできる。

 デザインビルド時代の設計者に求められる役割は、「どれだけびっくりさせられるか?」ではない。「どれだけ発注者のため、社会のために役立てられるか?」に尽きると思う。それだけ設計事務所が担うべき職域は広い。建築に関するプロフェッショナルサービスをあまねく提供できる存在であれば、自他ともに「建築家」として認められるはずだ。

 もう、びっくり箱なんて必要ない。設計事務所に新たな職能が花開く時代がやって来ている。


※このコラム記事はケンプラッツのFacebookページのコンテンツを加筆し、再構成しました。ケンプラッツのFacebookページでは最新情報も発信しています。