エンドユーザーに向かい合い 「豊かな生活」を自らに問う

松村 これまで、大企業はいわゆる規模の経済の下に全国のマーケットを大づかみにして大量生産・大量供給を行ってきました。一方、まさにローカル経済に属する場の産業にとって重要なのは、「密度の経済」なのです。様々なジャンルの仕事が詰まったある地域で事業を成功させるには、どこでも通用する同じ手法を用いるのではなく、異業種と組んだり、地域ごとに異なるプレイヤーと柔軟にチームを組んだりする必要があります。

 大手の組織事務所や建設会社にとっては、東京や大阪に超高層ビルを建てるのとは異なる戦略が求められるということですから、場をつくるといっても簡単ではないと思います。しかし、優秀な人材が多く集まっているのだから大企業なりの方法はぜひ考えてほしいと期待しています。

──建材や部品はどういう方向に向かいそうですか。

松村 あまりにも大きかった国内の新築マーケットに最適化されてきた日本の建材・部品産業が、海外のマーケットで成功するのは容易ではありません。いいものをつくっているのは確かですが、値段が現地の数倍するものになるからです。

 一方、国内では当然、場の産業に関わらなければいけなくなると思います。例えば、どんな下地でもうまく塗り替えることができるシーラー(下塗り材)など、住み手自身が楽しんで空間をつくる作業に対応できるような材料や部品は、ホームセンターを中心にかなり需要が出てきています。「R不動産toolbox」というウェブショップでは、住み手自身の手で敷ける木製フローリング材や、クリエイティブな職人の施工技術などを提供(派遣)していますが、このような動きにも注目しています。要は建設業向けではなく、エンドユーザーに対して、どういうサービスをどのように提供するか、それをどう事業化するかが問われる時代になるということです。

 エンドユーザーの声や感覚に触れるというのは従来であれば営業部門に限定されていたことかもしれません。しかし、これからは開発部門をはじめ組織全体で、エンドユーザーが「これはよく考えられているな」と感じるようなモノをつくる体制を築けるかどうかが肝心なのではないでしょうか。

 設計事務所であれ、建材メーカーであれ、大手住宅メーカーであれ、社員一人ひとりが、生活者としてどれくらいの発想力を持っているか。それが、商品やサービスにどう反映されるか。どれくらい楽しく生活しようと思っているかが個々に問われる時代に入っているのです。

※松村秀一教授を主著者に、青木純、内山博文、大島芳彦、小渕祐介、小嶋一浩、嶋田洋平、島原万丈、清水義次、清家剛、関根真司、瀬戸欣哉、曽我部昌史、林厚見 、三浦丈典、吉里裕也の各氏による議論を収録した新刊『2025年の建築「七つの予言」』を日経BP社より発行しました。下記をご参照ください。

[新刊]2025年の建築「七つの予言」

企画・監修:HEAD研究会フロンティアTF
著者:松村秀一ほか
発行:日経BP社 9月22日発行、2484円

※構法から見る建築の未来像を軸に、「場をつくる」新しい仕事の姿などを論じる新著(共著)

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