国、全国自治体などからの関心が高まる「リノベーションまちづくり」。その発信地である北九州市・小倉の現場からリポートする。(後編) ※前編はこちらの記事です。
家守の養成、不動産オーナーの啓発 補助金行政よりも大事な役割がある
「民間主導のリノベーションまちづくりと、市の側が進める資産活用のコンセプトが今後、重なり合う場面もあるだろう。小さな動きと大きなステージを統合させる絵姿を描ければ理想的だ」。北九州市は今年4月、建築都市局の中に都市マネジメント政策室を設置した。冒頭は、同室都市政策マネジメント政策担当係長の椿辰一郎氏の言葉だ。
都市マネジメント政策室は市の保有資産を対象にファシリティマネジメントを担う部門で、全国の自治体で進む動きと同様、公共施設などの再編と削減を責務とする。
公共施設はまちの集客装置の1つなので、その存在と、まちの形成には切り離せない関係がある。「突然なくなると、まちが死んでしまう。そうした観点を忘れずに“都市のつくり”を初めから見直し、その上で公共施設を再編する。公共マネジメントではなく、都市マネジメントと呼ぶのには、大きな意味がある」と椿氏は説明する。特徴の1つは、民間自立型の「小さいリノベーション」との連携に、いち早く意識的に取り組んでいる点だ。
民間の持つ比較的小規模の遊休不動産を活用する「小さいリノベーション」と、公共の持つ大きな面積を占める不動産を活用する「大きいリノベーション」の分け隔てのない連携も、前出の清水氏が挙げているポイントだ。
スモールエリアを設定するといっても、その中だけで自足できればいい、というものではない。行政には、全体の都市経営の課題に対応した政策を示し、まちをよくするためのベクトルをつくり出す責任がある。家守の活動とは、「その都市政策を、あるエリアの中で表現するものだ」(清水氏)。
国内では今後、8月1日施行の改正都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画制度により、都市のコンパクト化を目指す動きに改めて力が注がれる。これは大がかりなリノベーションと言っていい。その際にも、旧来の敷地主義に陥らずに周りを見てほしい、と清水氏は主張する。
「明日からできる小さいリノベーションを、まず先に動かす。そこに、時間を要する公共の大きいリノベーションを重ね合わせる。行政には“大きな大家”として、そうした動きを生み出す役割を担ってほしい」。
江戸時代の家守は、その数が2万人に及んだという。「民間自立型のまちづくり会社も幾つあってもいい。スモールエリアの中に複数つくり上げることが、エリアを変えていく時にはいちばん重要になる」と清水氏は語る。こうした家守になり得る人材とチームの養成、そして不動産オーナーの啓発の2つが、行政の大切な努めだと同氏は強調する。
スクール開催地が全国に広がる中で、市内の取り組みも新たなステップに入っている。小倉で開催するスクールの案件が、他の行政区に広がる動きがある。第7回では西の若松区や東の門司区の遊休不動産が対象となった。「7つある行政区それぞれで、リノベーションまちづくりが進む可能性もある」と椿氏は展望を語る。