「シェアプレイス東神奈川99」を手がけたリビタの井上聡子氏とリライトデベロップメントの古澤大輔氏に、リノベーションに対する考え方や、そのコンサルティング業務、コミュニティとまちのあり方などを聞いた。
事業性評価などコンサルティング能力を強みに
井上聡子(リビタ) 私は、入社以来9年にわたってシェア型賃貸マンションの企画、マネジメント、コンサルティングに携わってきましたが、この間にリノベーションという言葉はかなり浸透してきたと感じています。最近ではリノベーション事業への参入企業も増えて一棟丸ごとの空き社宅は案件数が減りつつあるので、新たに賃貸中の建物を活用する案件が増えています。
古澤大輔(リライトデベロップメント) 我々もやはりリノベーションの仕事が増えています。既存の建物に手を入れて再生させることはこれまでも行われてきたわけですが、最近顕著になってきているのは建物のオーナーから、新築とリノベーションの事業性を比較することが求められるようになったことです。
井上 今回の「シェアプレイス東神奈川99」の場合も、リノベーションを実施し、シェア型賃貸マンションとして運用していくという弊社の提案に対し、最も高い事業性を持つとオーナー側がご判断された結果、実現したものです。また私たちとしては、シェア型賃貸マンションの主な入居者である若者が増えることで、この地域の活性化にもつながると考えました。
弊社の手がけるシェア型賃貸マンションは、竣工後の運営までを業務対象にしています。10年、15年という期間にわたってサブリース(転貸)をしていく上で、運営的な視点から何が必要かを見定めています。同時に、入居者の視点に立って設計を行ってきました。今回は設計パートナーとして協働させていただきましたが、デザイン性を高めることだけに偏りがちな設計事務所もあるなかで、リライトさんが普通の設計事務所と違うのは、地域コミュニティに関わる仕事も行い、それらの経験を踏まえてリノベーションなどを手がけている点だと感じています。
コミュニティも合わせて考える
古澤 時代の要請に合わせて建物が継続的にどう使われていくかが大事だと考えています。今あるものをいかに活用していくかは、コミュニティ全体で考えていかなければならない問題です。既存の建物の活用とまちの活性化を結び付けるために、我々は設計のみを行うアトリエ型事務所からの脱却を図り、不動産やコンサルティングなど、設計に付帯する業務も手がける会社として組織変更しました。
特に不動産業は地域に根差しやすい業態なので、その点を重視しています。オーナーさんの立場では実際に、「地元の不動産会社にお願いすれば安心だ」と考える場合が多いようです。また組織変更には、設計料以外でのフィーをいただける業態にする、という意図もあります。ご存じのとおり設計料は工事費をもとに算出されますが、現状では個別のクリエイティビティや設計にかかった時間の総和などが反映されない仕組みになってしまっています。
不動産コンサルティングができる組織であれば、設計した建物の維持管理まで受注できる可能性が高まります。つまりコンサルティングから維持管理までトータルで考えて採算が合えばよいのです。
リノベーションを行う際、建物が過去に持っていた建築計画の形式を現代の生活スタイルに合うようにいかに翻案するかが非常に重要です。今回、リビタさんがこれまでの経験で蓄えてきたデータベースを、部屋数に対する共用部の水まわりの数やラウンジの広さ、また家電などの備品の数に至るまで、決定すべき様々な要素に反映させていきました。シェア型という新しい建物の使い方に関するこれらのデータベースは、もし公開できるのであれば、これまでの建築計画学を補強する有益な指標になるはずです。
井上 そうした共有情報は、個々の計画ごとにアレンジして使い、さらに運営から分かった点をフィードバックさせて更新してきました。現在進行中の物件もありますが、シェア型賃貸マンションに関しては「SPH99」までで計13棟835室の運営管理を手がけており、入居された方たちの意見を常に聴き取ってノウハウを蓄積しています。
ソフト面でもまちづくりに参加
古澤 シェア型は、新しいビルディングタイプとして既に定着した感があります。今後、それが人の生活やまちに根差していくあり方には、様々な可能性が開けていますね。
井上 シェア型賃貸マンションを選ぶ方というのは、どこに住むかは優先順位としては高くなく、誰と住むことになるのかという視点で物件を選んでいます。結果として、ここでの暮らしがよい経験であれば、その分まちに対する愛着も生まれるようです。リノベーションの場合、過去にそこに住まわれた人たちの歴史があるわけですから、残すのであれば残すなりの意味を持たせないといけません。新たな入居者の方に、そうした歴史をどう感じ取っていただくかがカギになるように思います。
そういう意味でも我々は、ハード面でのまちづくりではなく、ソフト面でのまちづくりに参加しているという意識を持っています。例えば、まちとのつながりの最初のきっかけとなるように、物件が竣工する直前にはまちびらきイベントを行うこともあります。その後、我々が何か特別なことをするわけではないのですが、SPH99の場合も入居者の方たちは地域の自治会の方たちと良好な関係を築き、夏祭りに参加したり、御神輿を担いだりと、まちになじんでいるようです。
リビタ プロジェクトマネジメント部分譲推進グループシニアコンサルタント
リライトデベロップメント取締役/建築家