阪神・淡路大震災以後、自社所有の建物に対する耐震診断・改修から始まったリニューアル建築部は、分社後には自社設計以外の建物も対象に乗り出してきた。リノベーション設計部長の河向昭氏に取り組みを聞いた。
三菱地所設計は今年4月、グループ制の導入など全社的な組織改革の中で、改修設計を担当してきたリニューアル建築部をリノベーション設計部と改称した。
リニューアル建築部は、2001年に三菱地所から分社独立する以前よりあった部署だ。「阪神・淡路大震災の少し後に発足し、当初は自社所有の建物に対する耐震診断・改修から始まった」と河向昭氏は振り返る。
近年は三菱地所が所有する建物の建て替えなどが進んできたため、件数で7割程が三菱地所以外から受注する案件となっている。特に増加したのはREIT(不動産投資信託)に代表される仕組みで証券化された物件の改修などだという。この場合は建物に対する評価が5~10年という短期的な見方になり、機能更新のための投資額も抑えたいという要請が強い。改修費用の適性評価を第三者として行うなどコンサルティング的な業務も多いという。
「社会状況、経済状況から生じるニーズにじかに左右される仕事だ」と河向氏は語る。東日本震災以降はやはり、耐震やBCP(事業継続計画)などに対応する業務が増えている。
組織人員としては約40人を擁する。同部は、4月の組織改革後に社内唯一のプロジェクト部となった。「業務件数が非常に多い上に規模も小さいものが中心で、どうしてもスピードが要求される」(河向氏)ため、プロジェクトごとに随意でチームを編成し、業務に当たる。
現状はオフィス・商業を中心として設備改修や耐震改修が圧倒的に多くなっているが、意匠担当の人員も配する。内装については、関連会社のメック・デザイン・インターナショナルと連携して対応する。増築と改修を同時に行うような特定の新築プロジェクトも担当する。
最新事例の一つ、「DBC品川東急ビル」の改修工事では、電算センターだった建物をオフィスとして活用するに際し、テナントリーシングを有利に運ぶために何よりも外装の意匠性の向上を重んじた。従来の仕事の多くが設備まわりを中心とする地道な改修計画だった中で、リノベーションの仕事の総合性やデザイン性を打ち出すパイロットプロジェクトの位置付けになるものだ。オフィスにふさわしいファサードを再構築しつつ、1階の接道部では隣接する新館との間にポケットパークを整備するなど街路空間としての魅力を高めることにも努めた。
「部署の業務の特性としては、技術的な専門性と同時に、顧客とのコミュニケーションにおける経験値が重要になる。といっても世代などが偏ってもいけないので、スタッフのモチベーションを保ちつつジョブローテションする工夫のほか、魅力的な案件の獲得にも努めていきたい」(河向氏)。
ビルの所有者それぞれが社会的なニーズに対応し、同時に資産価値を維持しようとしながら競い合っていく中で今後、「良好なアセットを持ち、投資できるところと、それができないところに二極化するのではないか」と河向氏は予測している。
潜在的には改修の市場が広がっているのは間違いない。「多様な仕事の請け方ができるのが、リノベーションの分野だと思う。今後、さらに需要を掘り起こすためには、営業をサポートするような業務も増やしていく必要があると考えている」。
グループ以外の案件を増やす中でターゲットになるのは、バブル期にできた大規模建築だ。それらの建築には、旧38条の大臣認定を受け、現状は既存不適格となっているものが非常に多いため、「法的なフォローがないとリノベーションが難しい」と見ている。将来的には、構造評定や確認申請を再申請するような大掛かりな案件にも踏み込む必要を感じているという。
さらに、ITの普及が進んだ21世紀以降にできたオフィスで遠からず、情報システム系の改修が課題になる。構造や設備と比較して寿命が短い上、キャパシティの増量や新技術の導入なども欠かせない分野だ。同社でも、「2002年竣工の丸ビルをはじめとする丸の内の新しいビル群が、情報システム系の面では間もなく対象になる」(河向氏)と見ている。