南海トラフ巨大地震が起きた場合、市内で最悪6700人が死亡、6万6千棟の建物全壊・焼失――。名古屋市が2014年3月に公表した独自の被害想定が話題となった。しかし、災害に対して手をこまねいているわけではない。名古屋一帯は、産官学民の連携に基づいた減災の取り組みが進んでいる地域でもある。

 2014年3月、名古屋市中心部の東、山の手に位地する名古屋大学のキャンパスの一角に、減災社会の実現に向けた新しいタイプの施設がオープンした。その施設の名前は、減災館。同大学減災連携研究センターが開設した、研究機能を備えた展示・学習施設である。災害発生時は、大学や地域の対応拠点としても機能する。

減災館には体感・体験で学べるいろいろな仕掛けが
1:東海地域の立体地形模型にハザードマップなどのデジタル情報を重ねて見せる3D地形模型。2:建物の高さによる揺れの違いなどを体感できる教材「ぶるる君」を集めたコーナー。3:高層ビルでの揺れを映像と振動台で再現する振動再現装置「BiCURI」。1~3は1階にある。4:減災館のフロア構成。屋上と免震層には振動実験装置がある。屋上実験室は100gal/70kine/片振幅70cm程度、建物屋上加振5gal/5kine/片振幅5cm程度、地下の免震層のジャッキ変形で免震建物・屋上実験室の共振実験ができる。5:免震層は一部がガラス張りで、減災館の免震装置を間近で見学できる。(写真:車田 保)
1:東海地域の立体地形模型にハザードマップなどのデジタル情報を重ねて見せる3D地形模型。2:建物の高さによる揺れの違いなどを体感できる教材「ぶるる君」を集めたコーナー。3:高層ビルでの揺れを映像と振動台で再現する振動再現装置「BiCURI」。1~3は1階にある。4:減災館のフロア構成。屋上と免震層には振動実験装置がある。屋上実験室は100gal/70kine/片振幅70cm程度、建物屋上加振5gal/5kine/片振幅5cm程度、地下の免震層のジャッキ変形で免震建物・屋上実験室の共振実験ができる。5:免震層は一部がガラス張りで、減災館の免震装置を間近で見学できる。(写真:車田 保)

減災館の建築概要
●所在地:名古屋市千種区不老町 ●建築面積:713.10m2 ●延べ床面積:2897.83m2 ●構造・階数:RC造、地下1階・地上5階 ●免震装置:天然ゴム系積層ゴムアイソレーター5基、直動転がり支承9基、オイルダンパー8基(免震層クリアランス90cm) ●設計:名古屋大学施設管理部、日建設計 ●施工:清水建設(建築) ●竣工:2014年2月(写真:車田 保)
●所在地:名古屋市千種区不老町 ●建築面積:713.10m2 ●延べ床面積:2897.83m2 ●構造・階数:RC造、地下1階・地上5階 ●免震装置:天然ゴム系積層ゴムアイソレーター5基、直動転がり支承9基、オイルダンパー8基(免震層クリアランス90cm) ●設計:名古屋大学施設管理部、日建設計 ●施工:清水建設(建築) ●竣工:2014年2月(写真:車田 保)

備えるために学ぶ場、減災館

 災害ボランティアの全国組織として名古屋を拠点に活動を展開する特定非営利活動法人レスキューストックヤード(RSY)の代表理事、栗田暢之氏は、その存在をこう評価する。

 「例えば自治組織の会長や地域防災のリーダーなど、市民が災害に備えるために学べる場がない。本来は大学ではなく公共で開設するのが理想だが、そうした場の必要性を考えると、減災館の存在は非常に価値がある」

 名古屋大学減災連携研究センターが減災館を開設した大きな狙いの1つに、地域住民の啓発がある。開設に向け奔走した同センター長・教授の福和伸夫氏はその狙いをこう語る。

 「耐震化、家具の固定、備蓄といった『自助』の実行を促す場が必要だ。人は、1:知識を得て、2:納得し、3:我がことと思うことで、4:決断し、5:実践するようになる。この減災行動のための5つのステップをすべて、減災館を通じてサポートしていく」

 福和氏は「地域の自主防災会や婦人会など、団体での来館者も多い。少なくとも1日に十数人、時には100人規模の人が訪れる」と説明する。地域住民からの評判も上々のようだ。

 減災館は、名古屋地区における減災のための人づくりの活動とも連携する。

 名古屋の地域連携の1つの象徴と言えそうな取り組みに、「防災・減災カレッジ」がある。行政、事業者団体、地域団体、自主防災組織、ボランティア団体の代表者で立ち上げたあいち防災協働社会推進協議会が、2012年6月、関係者間で交わした人材育成に関する協定に基づき取り組みを試行的に開始し、翌13年度から本格実施に踏み切った。14年度からは減災館も受講会場として活用されている。