「近隣トラブルの質が変わってきたように感じる」
 以前、取材の際にある建築設計者からこんな話を聞いた。都内で数多くの住宅設計を手掛けていたその建築設計者は度々、近隣交渉の矢面に立たされた。その経験から、交渉相手となる近隣住民に変化を感じたようだ。

 「近隣トラブルは以前からあった」と、その設計者は話を続けた。「特にマンション建設時には必ずと言っていいほど近隣住民から苦情が出て、近隣交渉が長引くことも多かった。しかし最近は、戸建て住宅の建設でも必ず苦情が出る。それまで穏やかに接することができた普通の住民が、ある日突然態度を硬直化させ、設計内容や工事に対して次から次へと注文をつけてくる。マンションの建設反対運動なら、窓口となる住民が分かるので対応のしようがある。戸建て住宅の建設反対となると窓口となる住民がいるわけでもなく、さみだれ式に提示される苦情の内容は千差万別で対応が非常に難しい」
 こう言って顔をしかめた。

(イラスト:佐藤 睦代)
(イラスト:佐藤 睦代)

「圧迫感を与えない設計にしてほしい」

 この建築設計者の話を住宅設計を手掛ける他の設計者に聞かせるとたいてい、「我が意を得たり」とばかりに日ごろの悩みを打ち明けてくれる。「騒音が気になるので、エアコンの室外機の向きを変えてほしい」「プライバシーを侵害されたくないので、窓のガラスをすりガラスにして目隠しをつけてもらいたい」といった近隣住民からの苦情は定番。「圧迫感を与えない設計にしてほしい」「子ども部屋を敷地境界線から離してほしい」といった、プランの変更を求める苦情も少なくない。

 「プランの変更まで求められると、建て主の私権の侵害ではないかと感じる」と、疑問を投げかける建築設計者もいた。近隣交渉に費やす時間の方が設計にかける時間より多くなることもあり、「報酬を得られるわけでもないのに、なぜ夜分に近隣住民の愚痴を聞かなければならないのだろうとため息をつくこともある」と言う人もいた。

 冒頭の建築設計者は、「適法な設計だからと近隣住民に説明しても解決する問題ではない。小さな戸建て住宅の建設でも周辺に影響を与えるものと捉え、近隣住民の言葉の一つひとつに耳を傾けるようにしている」と語る。だが、「賠償金や慰謝料を求めるのでもなく、設計変更を求めるわけでもない。苦情を述べること自体が目的化しているように見えるケースもあり、近隣交渉が難しくなっていると感じている」と悩みは尽きない様子だ。

日経アーキテクチュア10月10日号では、建築設計者の皆さんが直面した近隣トラブルの具体事例を詳述する記事を掲載予定です。その企画に当たって、近隣トラブルに関する緊急アンケート調査を実施いたします。是非、ご協力ください。アンケートは[こちら]から。