2013年3月16日午前1時過ぎ、地上2階の東急東横線渋谷駅は、最後の列車を迎えた。このとき手前の代官山駅付近では、レールを地下に切り替える作業が一気に始まる。勝負は未明の4時間足らず。約1200人が動員され、工事は無事に完了。午前5時すぎ、地下5階の新ホームから始発列車を送り出した。

3月16日午前0時45分、東横線渋谷駅の地上ホームに下り最終列車が到着。大勢の鉄道ファンがホームを埋め尽くす(写真:東京急行電鉄)
3月16日午前0時45分、東横線渋谷駅の地上ホームに下り最終列車が到着。大勢の鉄道ファンがホームを埋め尽くす(写真:東京急行電鉄)

 東横線の地下化の事業区間は、渋谷駅から隣の代官山駅までの約1.4km。渋谷駅寄りの区間は、地上の旧線路を残したまま、地下の新線路に切り替えることができる。しかし、地上に出る部分は、旧線路の真下に新線路がある。旧線路を撤去する一方で、旧線路のレベルを下げてそのまま使えるようにするといった工事が必要だった。採用したのは、「直下地下切り替え工法」と呼ぶ方法だ。

地下化区間の縦断図(資料:東京急行電鉄)
地下化区間の縦断図(資料:東京急行電鉄)

 渋谷駅側の旧線路と新線路との上下のクリアランスがある部分は「残置区間」と呼び、旧線路を残しておくことができたが、地上の代官山駅に向かうに従ってクリアランスは減少していく。旧線路は、撤去する区間とジャッキで引き上げてクリアランスを確保する区間があった。

 代官山駅の手前は「降下区間」と呼び、線路のレベルを下げて再利用した。駅の部分は、線路下の砂利を下げてレベルを合わせた。また、代官山駅は新ホームのスラブを事前に造っておき、旧ホームを支える構造にしてあった。そして作業当日、旧ホームを一気に撤去した。

3月16日午前2時09分、代官山駅付近の作業状況。地上部のレールを吊り上げると、下に新しいレールが現れた(写真:東京急行電鉄)
3月16日午前2時09分、代官山駅付近の作業状況。地上部のレールを吊り上げると、下に新しいレールが現れた(写真:東京急行電鉄)

 全ての作業はスケジュールどおりに進み、定刻どおりに始発列車は発車した。これを支えたのが周到な準備だった。

 地下化事業が決まった2002年の時点から切り替えについての構想に取り掛かっていた。そして、4年前から具体的な計画づくりに着手。1年前からは詳細に工法を検討するなど、時間をかけて作業内容を詰めていった。

 試験施工や訓練も実施。旧線路の撤去では、4台のクレーンが一斉に動く。アームが干渉しないかなどを確認するため、実物大の模型で試験施工した。

 鉄道営業を1日も止めずに、駅と線路を地上から地下へ一夜で切り替えたのだ。この翌週には、小田急下北沢駅など3駅も、一夜の切り替え工事で地下へ移った。