仮にこの技術がなかったとしたら、一体どのようにして構内に散乱する高線量のがれきを撤去しただろうか――。津波と原子炉建屋の水素爆発に襲われた東京電力福島第一原子力発電所で、建設会社が繰り出した虎の子の技術が、重機を無線で遠隔操作して作業員が近付けない危険な現場での工事を可能とする「無人化施工」だ。

 当初、国産ロボット技術がほとんど役に立たなかったことと比較すると、その功績は極めて大きい。事故から約3週間後の2011年4月5日には試運転を始め、その翌日から本格的な作業を開始している。1号機から4号機までの原子炉建屋周囲の道路に散らばったがれきの撤去作業を担ったのは大成建設など。11年11月初旬まで、片付けに従事した。

 廃炉に向けた原子炉建屋上部のがれき撤去と、燃料取り出し用のカバー設置にも、無人化施工を活用している。爆発の規模が大きく周辺の放射線量も高い3号機原子炉建屋を担当している鹿島は、放射線防護を施した600t吊りクローラークレーンや100tクラスの解体用重機など合計10台を遠隔操作するシステムを新たに構築し、11年9月10日に作業を開始した。

 重機の操作信号は429MHz帯特定小電力無線を使用して送信。重機や固定カメラからの映像データは、5GHz帯無線LAN(IEEE802.11jに準拠)で遠隔操作室に送っている。重機の位置に関係なく大量のデータを安定して送信できるように、複数のアクセスポイントが無線で通信し合いながらネットワークを構成する「メッシュ型無線LAN」を構築した。

福島第一原子力発電所で3号機原子炉建屋のがれき撤去に向かう解体用重機とクローラークレーン。左下の「鹿島」と記載された建物は厚さ60mmの鉄板で覆った遮蔽退避室。奥には重機の遠隔操作に用いる通信基地局のアンテナやカメラが見える(写真:東京電力)
福島第一原子力発電所で3号機原子炉建屋のがれき撤去に向かう解体用重機とクローラークレーン。左下の「鹿島」と記載された建物は厚さ60mmの鉄板で覆った遮蔽退避室。奥には重機の遠隔操作に用いる通信基地局のアンテナやカメラが見える(写真:東京電力)

重機10台の遠隔操作による福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋のがれき撤去作業の仕組み。鹿島の資料と写真をもとに日経コンストラクションが作成した
重機10台の遠隔操作による福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋のがれき撤去作業の仕組み。鹿島の資料と写真をもとに日経コンストラクションが作成した

 災害大国・日本で独自に発展した無人化施工の歴史は、思いのほか長い。1969年、富山大橋の橋脚沈下応急復旧工事に遠隔操作式の水陸両用ブルドーザーを使用したのが、初の事例とされる。ただし、現在の無人化施工を支える基盤技術が確立したのは93年以降だ。長崎県の雲仙普賢岳の噴火に伴う除石工事を契機に、当時の建設省が旗を振って技術開発を促した。

 進化の過程は、四つの世代に分類できる。ラジコンのように目視で重機を操る第一世代。カメラから送られる映像を見て遠隔操作する第二世代。GPS(全地球測位システム)などで施工精度を高めた第三世代。現在は、通信距離や伝送情報を拡張した第四世代に当たる。既に、30km以上も離れた場所からの操作も可能になっている。

 これまで無人化施工の活躍の場は、土砂災害などの緊急対策工事がほとんどだった。従って、計画的に技術開発を進めにくいという特徴がある。それでも、国土交通省が実証用のフィールドを提供し、建設会社や建設機械メーカーなどが“手弁当”で細々と開発を続け、技術とオペレーターを育ててきた。

 さらなる進化に向けて、建設会社などは開発を継続している。大林組は、3D映像によってモニター上に奥行きを再現し、臨場感を与えようと研究中だ。大成建設は3年計画で、機械自ら判断する「自律式」の無人化施工を開発している。施工範囲と回数を指定すると自動で作業する転圧ローラーなどの実現も近い。放射性廃棄物の地層処分などで、このような技術が利用される日が来るかもしれない。

 このように、「雲仙」以降の経験に裏打ちされた実力は、「福島」でもいかんなく発揮されている。ただし、気掛かりな点もある。9月5日、3号機原子炉建屋で使用している600tクレーンのジブ(腕)が突然倒れるという、思いがけないトラブルが発生したのだ。汚染水対策に注目が集まっているが、廃炉に向けて日本で最も危険な工事を進めているこの現場を、どのように支援していくかが問われている。

無人化施工の進化の歴史。雲仙普賢岳の噴火に伴う対策工事で開発が加速した。日経コンストラクションが作成
無人化施工の進化の歴史。雲仙普賢岳の噴火に伴う対策工事で開発が加速した。日経コンストラクションが作成