共通の課題は既存ストックに

 そのように違いが大きい2つの業界にも、重大な共通課題があると感じている。既存ストックの維持管理や経年劣化への対策が不十分であることだ。耐震や断熱の性能が不足している住宅の改修は、国土交通省をはじめとする官公庁や学識者などが声を枯らして必要性を訴えてきたが、必ずしも進捗していない。既存の公共施設では昨年12月、ストックの状態の悪さがもたらす最悪の事例として、中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故が起こった。

 笹子トンネルの事故以降は、直接関係がない取材の際にも、事故のことが時々話題になる。ある中堅建設会社の社員の「ストックの維持管理や改修が大事だと分かってはいるのだが、手間が掛かるし利益率が低くてねえ」というつぶやきに、「アリャ、このセリフ聞き覚えがあるぞ」と思った。日経ホームビルダーの取材でも、似たようなことを言う工務店社長や住宅会社社員がいたのだ。十分なメンテナンスを受けずに放置されているストックが少なくないのは、発注者の財政事情などのほかに、業界側の取り組みにいまひとつ積極性が欠けているせいもあるのではないかと思う。

 しかしながら、長年にわたり使用されてきた公共施設は、わずかでも不具合を起こして使用に制限が掛かると、直ちに地域住民の生活や経済活動に影響を及ぼす。例えば1月に生じた国道371号の紀見トンネル(大阪府河内長野市、和歌山県橋本市)の不具合は側壁の一部の剥落に過ぎなかったが、片側交互通行の期間は約10日間に及んだ。期間中の1月11日に現地を訪ねると、和歌山方面から大阪方面へ向かう車が渋滞していた。通勤、物流などに加えて、救急車や消防車の通行に支障が生じていないか心配になった。建設会社がCSRを本業で果たそうとするなら、既存の公共施設の不具合を未然に防ぐ取り組みを、新設工事と並ぶ本業に位置付けるべきではないか。今後、利益率も改善されることを期待したい。

1月11日に和歌山県側から見た紀見トンネル。片側交互通行のため、大阪方面へ行く車が渋滞していた(写真:日経コンストラクション)
1月11日に和歌山県側から見た紀見トンネル。片側交互通行のため、大阪方面へ行く車が渋滞していた(写真:日経コンストラクション)

 個人住宅の建設実務者も、少なくともストックの維持管理や改修にはCSRの一環として取り組んでほしいと思う。現行の耐震基準を満たさない住宅が強い地震で倒壊すれば、影響は近隣の道路や電柱などにも及ぶ場合があり、住人だけの被害だけでは済まなくなるからだ。その実例を2007年の新潟県中越沖地震の取材で目の当たりにしたのを覚えている。

2007年7月の中越沖地震で倒壊した新潟県柏崎市内の住宅の一例。電柱を巻き込みながら前のめりに倒れて道路をふさいでいた(写真:ケンプラッツ)
2007年7月の中越沖地震で倒壊した新潟県柏崎市内の住宅の一例。電柱を巻き込みながら前のめりに倒れて道路をふさいでいた(写真:ケンプラッツ)