中央自動車道の笹子トンネルで天井板が落下して9人が亡くなった。土木技術者にとってこの事故は非常に重い。指摘される「老朽化」の問題に加え、天井板という二次部材(非構造部材)が「凶器」になったからだ。

 東日本大震災で建物の吊り天井が落下して死者を出したことと同じことが、インフラでも起こったと言える。しかも、地震などの自然災害によらずだ。

 インフラの老朽化問題は叫ばれて久しい。1999年に起こった山陽新幹線のトンネルのコンクリート剥落、海岸沿いのコンクリート橋の塩害、鋼製の橋の腐食など、問題は分かっている。課題は、補修や更新の財源が足りないことだ。

 これまでインフラの管理者が老朽化で問題にしていたのは、トンネルならば覆工コンクリートや床版などの構造上、重要な部位だ。橋も同様で、橋桁や橋脚といった構造部材だ。つまり、今回の事故原因となった天井板のような二次部材については、あまり重要視していなかった。

 2010年に開通後間もない首都高速中央環状線山手トンネルで、打ち込みピンで吊っていた重さ1.6tの案内看板が落下した事故があったが、幸い人や車両への被害はなかった。この事故を、吊り天井などの二次部材の安全性に結びつける議論にはならなかった。

設計思想に問題はなかったか

 さらに、古いトンネルではあるが、設計上の問題はなかったか。

 アーチ状のトンネル断面上部を、車両が走行するうえで必要のない部分に天井板を設けて換気用に使うのは合理的だと言える。しかし、換気用の空間を確保するためだけに、重さ1t超(長さ約5m×幅約1.2m×厚さ80~90mm)ものプレキャスト・コンクリート製の天井板が必要なのか。軽量気泡コンクリート(ALC)のようにもっと軽い素材はある。

 加えて、この事故は天井板が100m以上にわたって崩落したとされるが、なぜ途中で崩落が止められなかったのだろうか。100m以上にわたって同時に、吊り金具が抜け落ちたとは考えにくい。ある箇所で吊り金具が抜け、その荷重が隣の天井板に作用して連鎖的に次々と落下したと考えるのが自然だ。

 実際の原因究明が待たれるが、もしも連鎖的に落下したのならば、途中途中で縁を切る構造になっていればこれほどの事故にならなかったかもしれない。事故後の救助もこれほど難航しなかった可能性もある。

 ここで述べたのはすべて結果論だ。土木分野の専門媒体の記者として、考えたことのなかった事故だ。その反省を込めて、老朽化問題の再認識に加えて、二次部材の安全性について深く考える契機にしなければならない。

<訂正>天井板の厚さを初出時に「0.8~0.9m」と記述しましたが、「80~90mm」の誤りでしたので修正しました。(2012年12月5日21時25分)